平安貴族とは何か の商品レビュー
ライトな古記録の入門書。 平安貴族について正面から論じたものではない。 大河ドラマの場面が脳内再生される。
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著者は大河ドラマの時代考証担当。 そのためか、今年はこの人の本もたくさん店頭に並んでいる。 本書はまったくの新しいものではなく、かつてカルチャーセンターで行ったレクチャーを文字起こししたもの。 その意味では、とても親しみやすい。 藤原道長の日常生活 (講談社現代新書 2196...
著者は大河ドラマの時代考証担当。 そのためか、今年はこの人の本もたくさん店頭に並んでいる。 本書はまったくの新しいものではなく、かつてカルチャーセンターで行ったレクチャーを文字起こししたもの。 その意味では、とても親しみやすい。 藤原道長の日常生活 (講談社現代新書 2196)とか、藤原氏―権力中枢の一族 (中公新書)を読んでいるが、これらより、格段に読みやすく、何より興味が持てる。 本書では道長の『御堂関白記』、行成『権記』、実資『小右記』を紹介していく。 例えば、三人の書き方(紙面をどのように書くか、誤字や誤記をどうするかなど)や、写本がどんなふうに伝わったかという話もある。 ともすれば専門的すぎる話題で、実際同じ著者の本でも時に興味が持続できないことがあった。 本書ではそれぞれのキャラクターについての倉本さんの推測も交えて説いていくので、面白い。 また、三人の日記を通して、一条朝の有名な出来事の状況もわかってくる。 一帝二后を成立させるまでのあれこれ。 行成の一条天皇への説得工作は、道長の直接的命令というよりかなりの忖度が働いていたようで、もはや彼の暗躍とでも言いたくなった。 一条の崩御の際には、道長が指図して、穢れに触れさせないため、帝に伺候する側近貴族たちを振り分け、建物から退去させたという話も、なかなか衝撃的だった。 にも拘わらず、なかなか一条の傍を離れようとしない貴族たちが多かった、と聞いて、これまた一条の人柄を想像させられた。 記述としては、やはり御堂関白記を扱うところが分厚い。 道長はわりと記憶に頼って記述し、細部が間違っていたり、抜け落ちたりすることもあるそうだ。 引き出物の記述がかなり多く、これは彼が人心掌握に注力していたことの証でもあるという。 逆に実資は、兄や子どもたち、従兄弟の公任から聞いたり、メモをもらったりして書く、几帳面派。 学究肌とも言われるこの人が、道綱を「能無しのくせに自分を差し置いて出世した」と怒っているのが面白い。 追い越されたら、抜き返すことができないというシステムだったことは、本書の解説で初めて知った。 小ネタ(と言っては失礼かも)でも面白かったことがたくさんある。 御霊を恐れた彼らが護身用の刀を庭で振り回すのは、自分も大鏡などで読んだことがある。 危ない話だな、と思っていたのだが、実際落雷して死んだ人が何人もいると本書にあって、やっぱりか、と思った。 欲を言えばどの本で確認できるか知りたかった。 さて、本書のコンセプトは、「政治に邁進する平安貴族の実像」を知らしめることだとのことだった。 これはまた、大河ドラマでも同じような姿勢が見られ、道長が理想を持った政治家として描かれようとしている(2024年6月末)ことにもつながっていると思う。 けれど、まだどうしても納得がいかない。 ここでいう「政治」というのは、やはり宮中の権力掌握による政権安定までの射程しかないように見える。 たとえば、税制は、外交は、公共的な施策は? そういった広い意味での政治が見えてこないのは、残念ながらドラマも本書も同じ。 といいながら、現在でも政治は政党と派閥争い。 日本では政治というのは、平安からそういうありかたしかしないものだ、と観念するべきなのかも?
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1000年以上も前とは信じられないほど高レベルの文化を保った平安時代、それを支えた平安貴族に興味を持ち、本書を手に取った。 本題は道長、行成、実資の3名が各々記述した日記を読み解くことにあるが、古記録に疎いため序章の日記(にき、と読むそう)に書かれる事柄、日本で日記が多く書かれ...
1000年以上も前とは信じられないほど高レベルの文化を保った平安時代、それを支えた平安貴族に興味を持ち、本書を手に取った。 本題は道長、行成、実資の3名が各々記述した日記を読み解くことにあるが、古記録に疎いため序章の日記(にき、と読むそう)に書かれる事柄、日本で日記が多く書かれた理由などもとても興味深かった。 一通り平安時代の政上の事件を知っている読者に対して、「日記を通してその裏側を伝える」ことが本書の主な狙いだと感じたので、日本史を復習後に再読したい。 本書はラジオ収録を文字起こししたものということで、何度か既出の説明が見られることがある。人名や記録名がわからなくなってしまうことがあったので、却って、随所で説明がなされていて有り難かった。
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皆さんは平安貴族についてどんなイメージを持っているだろうか?平安貴族たちは遊宴と恋愛にうつつを抜かし、毎日ぶらぶらと暮らしている連中で、しかも物忌みや怨霊を信じて加持祈祷に頼っている非科学的な人間であると信じられてきた。そして草深い関東の大地から立ち上がった勇敢な正義の武士に歴史...
皆さんは平安貴族についてどんなイメージを持っているだろうか?平安貴族たちは遊宴と恋愛にうつつを抜かし、毎日ぶらぶらと暮らしている連中で、しかも物忌みや怨霊を信じて加持祈祷に頼っている非科学的な人間であると信じられてきた。そして草深い関東の大地から立ち上がった勇敢な正義の武士に歴史の主役を取って代わられるのも必然であると思われていた。そのため世間では平安時代など全く人気がなく、歴史学会でも長く平安時代は悪い時代であるとの評価がもっぱらであった。かくいう自分もそのような否定的なイメージを持っていた事は否めない。しかし本書を読むとそんなイメージを覆される人も多いのではなかろうか。まず平安貴族は意外に多忙であるという事がわかる。遊宴と恋愛にうつつを抜かす貴族というのはほんの一部であり実務をつかさどる貴族は古来の先例に基づいた行事や法令、制度、風俗、習慣、儀式、装束などのことに縛られ、自分の子孫にも間違いがないようにと日記に記している。この日記は「にき」と呼び、現在の日記とは違い、儀式の指南書のような印象が強い。本書では有名な古記録である藤原道長「御堂関白記」、藤原行成「権記」、藤原実資「小右記」の三つを取り上げ誤解されがちな平安貴族の実像に光をあてている。とくに道長はNHKの大河ドラマ「光る君へ」の主要登場人物なのでドラマを見つつそのドラマの時代考証をもしている作者の本を読むとより楽しめる事うけあいである。詳細→ https://takeshi3017.chu.jp/file10/naiyou33801.html
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『御堂関白記』は自筆本が残っているそうで、原本ならではの読み解き方が特に興味深かったです。実資と行成、ドラマでも注目してみます。
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あんまり難しかったら…と迷ったけど、結果読んで良かったです。 とっかかり、平安時代を説明するに、日記から紐解くことで親近感も持てたし、ちゃんと重なっていくのが楽しかったです。 摂関政治と習った藤原一族の同行や、その職責がどんなかなどそうだったのかと腑に落ちます。 この時代も...
あんまり難しかったら…と迷ったけど、結果読んで良かったです。 とっかかり、平安時代を説明するに、日記から紐解くことで親近感も持てたし、ちゃんと重なっていくのが楽しかったです。 摂関政治と習った藤原一族の同行や、その職責がどんなかなどそうだったのかと腑に落ちます。 この時代も、一族のために婚姻が利用される、女性はその道具だったことがありありとわかる。 それと、男性は「waoh!」というピンク色の夢を見ると言うが、この時代にもその夢があった(ある意味当然?)それが書き付けてあるというのも驚いた。 ただ、その夢は旅立ってしまう妻との夢で、このときに不謹慎なと自分を責める気持ち、そしてやはり旅立ってしまう妻を想う気持ちが切なかった。 この本の語り口で一気に平安時代が身近になったけど、これは著者倉本一宏さんだからかなと思う。 この面白さ是非体験して欲しい。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
藤原道長の『御堂関白記』、藤原行成の『権記』、藤原実資の『小右記』を読み解いた史料です。 道長の『御堂関白記』は令和の現代にまで現物が残っていることに驚きでした。 こうして平安中期の記録を楽しくわかりやすく書かれていて、私は読んでいてとても楽しかった。(難しくないけれども、抑えなくいけないことはきちんと押さえてあるところがいいですねぇ♪) それぞれの立場で当時の政局が語られているので、『源氏物語』の史料とは違った楽しさがあります。 大河ドラマを楽しんでいる方にもおすすめです。
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大河ドラマ「光る君へ」の時代考証を担当されている倉本一宏先生の本。先生の専門である平安時代の日記「御堂関白記」「権記」「小右記」について解説されている。 大河ドラマはドラマとして楽しんでいるので、こうして実際の平安時代にはどんな記録が残されているのかということを知りたかった。最初...
大河ドラマ「光る君へ」の時代考証を担当されている倉本一宏先生の本。先生の専門である平安時代の日記「御堂関白記」「権記」「小右記」について解説されている。 大河ドラマはドラマとして楽しんでいるので、こうして実際の平安時代にはどんな記録が残されているのかということを知りたかった。最初の本として読んで本当に良かった。 今までは平安時代と言ったらその風俗や女流文学から切り込んだ文献を読んでいた。こうして政治の中枢にいた権力者たちの日記から見えてくるリアルな時代も面白いなと。日記を残すことで子孫が権威を保てるようにしたという、なんとも政治的な理由も面白いが、普通にその内容が興味深かった。 ハイパーウルトラブラック官僚として有名な藤原行成の実際の業務は文字で読むだけでも胃が痛くなる。一条天皇を脅して一帝二后を認めさせたりとか、危篤の一条天皇を脅して定子が産んだ敦康親王ではなく彰子が産んだ敦成親王を東宮にするよう迫ったりとか……夜中まで彼が仕事をしていたことは知っていたがその内容もエクストリームだ。こんなブラック業務をこなしながらあんなに美しい字を書く藤原行成、推せる。 倉本先生の語り口もとても軽妙で入門としてとても楽しく読ませていただいた。 "NHKの大河ドラマ「光る君へ」が、紫式部と藤原道長を主人公にするという発表があり、(中略)面倒な仕事だなと思いながらも、これは平安貴族の実像を世間に知らせる最後のチャンスかもしれないと心を奮い立たせ、大河ドラマの仕事を引き受け、この本も出版していただくことにした次第です" という「はじめに」に書かれている先生の文に惹かれたら是非読んでいただきたい。 私自身平安時代の文化や文学が好きすぎて「私が考えた最強の平安時代」というものを若い頃に新書や国語便覧のカラーページを読んで作り上げてしまったところがある。だからこそもう一度この平安時代という時代に対してどんな研究がなされているのか詳しく知りたいという気持ちになった。倉本先生の他の本は勿論、他の研究者の本も読んでみたい。服藤早苗先生の本も読み返したい。 最後の章が藤原実資の「小右記」について書かれていることも納得。中世の武家社会に繋がる歴史の流れは、当たり前に平安時代の摂関政治にあったのだな。
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平安時代の古記録であり、一次史料とも言える『御堂関白記』、 『権記』、『小右記』から解き明かす、平安貴族の実像とは。 ・はじめに 序章 古記録とは何か 第一部 道長は常に未来を見ていた ――藤原道長『御堂関白記』を読む 第一章 「自筆本」の価値 第二章...
平安時代の古記録であり、一次史料とも言える『御堂関白記』、 『権記』、『小右記』から解き明かす、平安貴族の実像とは。 ・はじめに 序章 古記録とは何か 第一部 道長は常に未来を見ていた ――藤原道長『御堂関白記』を読む 第一章 「自筆本」の価値 第二章 「一帝二后」成立の裏側 第三章 書き方や消し方からわかること 第四章 女の懐妊祈願に決死の参詣 第五章 権力を恐れない者・伊周 第六章 常に未来を見据えて 第二部 子孫繁栄のための苦悩――藤原行成『権記』を読む 第七章 赤裸々な記録の意図 第八章 次期東宮をめぐる苦悩と策謀 第九章 平安貴族は何の夢を見たか 第三部 共有財産としての日記――藤原実資『小右記』を読む 第十章 日記に見る実資の大望 第十一章 出世レースに敗れても 第十二章 「驕れる道長」という虚像 ・おわりに 参考文献有り。 平安中期、摂関政治の最盛期に書かれた3つの日記は、 個人のためではなく、儀式のためであったという。 その書き方や記録から分かる、3人の人物像と朝廷の様子。 自筆本『御堂関白記』の藤原道長は、疫病の流行により、 兄弟や有力者が消えたことから、30歳で権力者の座へ。 権力の維持と継承、未来を見据えた、子孫たちの記録が熱い。 『権記』の藤原行成は、摂政だった祖父と父を早くに亡くし、 地下人に。蔵人頭に抜擢されたが、天皇の側近として信頼され、 皆に頼られたあげく、思うように出世が出来ず、権大納言まで。 信頼された人々の秘事や内密を書き残したのは子孫のため。 『小右記』の藤原実資は、三代の天皇の蔵人頭。 人に読まれることを想定した貴族の共有財産として、 60年以上書かれた日記は、儀式の権威としての証。 右大臣まで出世し、道長の「この世をば・・・」を書き残した。 著者の『平安京の下級官人』が面白く、 取り上げられていた古記録をもっと知りたいとの読書です。 大河ドラマ「光る君へ」の時代考証も担当してるのですね。 平安貴族と成り、その地位を確立し、維持することの難しさ。 子女が産まれて育ち、跡継ぎになるか。 天皇に嫁いで跡継ぎを産み、育てるか。 子孫繁栄を未来に据えても、それは綱渡りの様。 また、儀式とその標準を作ること、信仰、死穢、夢見等の 職務や日常の様子も日記には表れています。 そして、摂関期と古記録についての知識を得ることが出来、 良かったです。特に道長の金峯山詣の記事には、驚き。
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<目次> 序章 古記録とは何か 第1部 道長は常に未来を見ていた~藤原道長『御堂関白記』を読む 第1章 「自筆本」の価値 第2章 「一帝二后」成立の裏側 第3章 書き方や消し方からわかること 第4章 女の懐妊祈願に決死の参詣 第5章 権力を恐れない者・伊...
<目次> 序章 古記録とは何か 第1部 道長は常に未来を見ていた~藤原道長『御堂関白記』を読む 第1章 「自筆本」の価値 第2章 「一帝二后」成立の裏側 第3章 書き方や消し方からわかること 第4章 女の懐妊祈願に決死の参詣 第5章 権力を恐れない者・伊周 第6章 常に未来を見据えて 第2部 子孫繁栄のための苦悩~藤原行成『権記』を読む 第7章 赤裸々な記録の意図 第8章 次期東宮をめぐる苦悩と策謀 第9章 平安貴族は何の夢を見たか 第3部 共有財産としての日記~藤原実資『小右記』を読む 第10章 日記に見る実資の大望 第11章 出世レースに敗れても 第12章 「驕れる道長」という虚像 <内容> 2018年のNHKラジオの音源を基に本にしたもの。来年の大河ドラマが紫式部なので、この手の本が多く出されているが、著者は平安期の研究者として有名。内容も「へえ~」が多く、面白かった。ただ道長をやや持ち上げすぎかな?第12章で、「望月の~」の歌が「驕っていたわけではない」と述べているが、あまり納得できなかった。ただ平安期の日記の価値はよくわかった。
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