貴婦人Aの蘇生 新装版 の商品レビュー
窒息しそうなほど切ない気持ちになった。 生きることの健気さや悲しさを感じるたびに、切なさが喚起された。 切ない場面は、数えきれないほど散りばめられている。 しかも、そのほとんどが実に醜い描写の場面だ。 例えば、痩せた老女の洗練されていない仕草。 太った中年男のむさ苦しい容姿。 野...
窒息しそうなほど切ない気持ちになった。 生きることの健気さや悲しさを感じるたびに、切なさが喚起された。 切ない場面は、数えきれないほど散りばめられている。 しかも、そのほとんどが実に醜い描写の場面だ。 例えば、痩せた老女の洗練されていない仕草。 太った中年男のむさ苦しい容姿。 野性動物の剥製が手荒く扱われて傷む様。 不思議なもので、醜ければ醜いほど、切なくなった。 その切なさは、同情や憐れみとも微妙に異なる。 むしろ慈しみに近い。 人間の愚かさや弱さが愛しくなる。 また、この作品には嘘も多い。 けれども、読み進めるにつれて、嘘はどうでも良くなる。 事実よりも大切な物があるかもしれない、と思うようになり、それを優先する時間があっても良い気がしてくる。 醜さや嘘を越えて、もしくは虚構の中にいて、登場人物が初めて気づく感情というものがあった。 それが決して悪くはなく、むしろ心の成長、脱皮にも思えた。 事実がもっとも重要とは限らないのだと感じた。 2016年2月9日読了
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小川洋子の文章は、基本的にクールに硬質に淡々と続く(解説 藤森照信) その小川洋子の文章が素敵。 結末は「博士の愛した数式」とか「ことり」とか読んでいるとそうなるなーと思うけれど、どの作品も悲しみよりも優しさが残る感じが好き。
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