虚像のロシア革命 後付け理論で繕った唯物史観の正体 の商品レビュー
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血の日曜日事件など、かつて教科書で読んだものの、具体的に何があったのかよく知らぬままにいた出来事の多くが、「ああそうだったのか」と納得できる形で説明されています。 渡辺惣樹さんは、偉人の歴史には、女性がどう関わったかを調べずに語れないという着眼点が昔からあるようです。 今回も、ロシアが革命で斃れるきっかけとなった哀れな皇帝が、どのような経緯であったのか、女性への傾倒と、帝王学を学ぶはずだった父があまりに早く亡くなってしまった不幸などを通じて説明されています。 父に義理立てて遅らせた結婚ゆえ、彼を亡くせばすぐにでも式を取り持ちたいという個人的な想いには同情しますが、普通選挙に憧れる国民感情の無視や、過激派が思うままに内政を操っていることへの露骨な無関心など、目に余る未熟さも明らかです。 その未熟さこそ、父をあまりに早く亡くした不幸ゆえと思えば、やはり同情はするのですが……ピョートル氏の規格外な好奇心を鑑みると、やはり、未熟は未熟であったと言わざる得ないと思われます。 とはいえ、読み進めていくと、ニコライ2世は、決して未熟なままではなかったと分かります。むしろ、各国の世論をよくよくと調べ、世界大戦のリスクを見越していたナサニエルロスチャイルドと同様に、戦争回避を望んでいたことが分かります。インフラの債権の多くが、フランス由来であったため、そのフランスがドイツと戦わないと決めさえすれば、それだけで自動的に参戦は避けられたのですから。 もちろん、ナサニエルが戦争を避けたかったのは、人情とか、そうした美しい話ではなく、ただの市場経済の安定を意図したものに過ぎませんが、金融資産によって世界支配を目論んできた彼ら一族の性質上、市場経済の安定とは平和の構築でもあります。イスラエルと米ネオコンの複雑な関係が出来上がるその前から、自らが就いた地の平和を守ろうとするユダヤ思想は、ある程度存在していたのだろうと考えました。 それにしても、チャーチルの出世を支えたのが、袖にされた女性だったとは。つくづく、表の歴史には出てこない、偉人たちの男女関係というのは趣深い。ハニートラップのみならず、国家の動きを決める政治家・官僚たちの浮沈が、男女関係で決まっているというのは、どれだけ文明が進もうと、私たちは原始的に動物であることを思わざる得ないと直感しています。 ナサニエルが戦争に反対だったことを思うと、チャーチルの背後にいた金融資産家は一体誰だったのか、気になります。彼を支えた女性にこそ、その金銭的な援助が約束されていたのかもしれません。 そして、その後に記されていく、多くの、戦争を避けようとした人たちの勇気と、もつれる思惑の悲しみたち———まるで小説のように、物語を楽しむように、じっくりと読むことが出来ました。 また、いかに、釈明歴史観、東京裁判史観が、歪なものであり、浅はかな情報の切り取りであったかが、明らかになったと確信出来ました。もちろん、もっと複合的に見ていけば、惣樹さんの解釈すら、見落としていることはたくさんあるのでしょう。 けれど、それこそが、「歴史のIF」から、今に生かせる知恵を見出し、伝えたいと願う、惣樹さんの想いに敵うものだと思います。自分が永遠に正しいことを証明しようとしたチャーチルが愚かであったなら、自分よりも多くの人を幸せに出来る道筋を見つけた人が現れたなら、嫉妬ではなく、祝福で応えたいものです。
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