koro の商品レビュー
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※このレビューにはネタバレを含みます
題名に親近感が湧き、手に取った短歌集。お気に入りは"煙草の火貸すのもこれで最後かなどんな挽歌も似合わない人""話し足りない、いやもやし足りなくて吸われるように夜道を歩む""苦笑いの苦さをおれに舐めさせて 室温に近づく炭酸水"。
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『koro』はエスペラント語で「心臓」を意味する言葉だそう。 平積みされたこの詩集の装丁が美術品のように美しくて、どうしたって目を引かれてしまう。 短歌も、とても美しい。 装丁のイメージをそのままに、榊原さんの、高貴な美意識というか芸術作品を手にしましたという感じ。 ただ時折、際...
『koro』はエスペラント語で「心臓」を意味する言葉だそう。 平積みされたこの詩集の装丁が美術品のように美しくて、どうしたって目を引かれてしまう。 短歌も、とても美しい。 装丁のイメージをそのままに、榊原さんの、高貴な美意識というか芸術作品を手にしましたという感じ。 ただ時折、際(きわ)を感じる歌に出会ってドキリとする。 そして同じように、真っ赤な小冊子である栞にもドキリとさせられる。 これ、とてもお洒落だし歌集の深みも増して、素敵な仕掛けだと思った。 こちらには帯に言葉を寄せられている方々の解説あり。 『切り花を支える水の厚さ もうこれきりと知り硬貨を払う』 ん?と一瞬思ったが、多分どなたかの死期を知ったということか? お見舞いの切り花を買うのは、もうこれきり。 "支える水の厚さ"と表現されているところに、これまでの様々な想いと、命の豊かさと儚さを感じる。 『明晰夢は呼び合うという。銀の塔の根元で待ち合わせする』 "明晰夢"とは、夢の中で"これは夢だ"と自覚のある夢のこと。 "銀の塔の根元"が何処かを調べるなんて野暮かなーと思いつつも検索すると、 フランスに、"銀の塔(フランス語でトゥールダルジャン)と呼ばれる、太陽の光に反射して銀色に輝く雲母で飾られたトゥールネル城の塔" なるものがあるらしいと知った。 夢の中で待ち合わせをしたのはここかしら? それとも、そことは全く関係なく、明晰夢の入り口を"銀の塔の根元"と詠んだのかしら? 『イカロスを幾度も墜とした手で作るオランジェットを舌にのせれば』 とても好きだと思った。 "イカロスを幾度も墜とした"とは、単にチョコレートを溶かした事を言っているのか? それとも何かの喩え? "墜とした手"がやけにリアルに感じられ、少し怖いのも好き。 他にも、お気に入りを幾つか。 『指だけを繋ぎ隣で泥船を見送っていた 星燃える夜』 『銀漢に表裏があれば手触りは違うのだろう 指輪を外す』 『ロングドレスをそうするように魂をたくしあげつつ死までを行こう』 『何度でも立ち尽くしたいありとある花を欲する花瓶のように』 『音を立て白木蓮が散ってゆく郵便受けを何度も覗く』 『ボトルシップの底に小さな海がある 語彙がないから恋になるだけ』 『寝た人の息がこの世を深くするそこまで落ちるため眼を閉じる』
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