慢性痛のサイエンス 第2版 の商品レビュー
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特に印象に残っている部分: 「生体は進化の過程で、快・不快情動を発達させてきた。生存を脅かす有害なもの (肉食獣、痛み) に対しては、本能的、直感的に恐怖感を抱き、これを罰 (不快) として記憶し、嫌悪して忌避行動をとることで生命を維持してきた。生存に不可欠なエサ、水、交尾対象や群れの仲間に対しては、これを報酬 (快) と評価して接近行動をとっている。 自然界におけるサバイバルは、忌避行動と接近行動のバランスの上に成り立っている。予定していた報酬が得られなければ、不快であり、怒りの反応となる。水やエサが期待や予測を上回れば、快や喜びの反応となり、生きる意欲の根源となる。負情動と快情動とは、個体の生存維持や種の保存を図るうえで、重要な役割を果たしてきた。 恐怖、不安、嫌悪、怒りなど、負情動の形成に中心的な役割を担っているのは、扁桃体である。身体が侵襲されたという侵害情報は脊髄ー腕傍核ー扁桃体投射 (spino (trigemino) - parabrachio-amygdaloid pathway) によって伝えられる。扁桃体は緊急事態に対応する生命維持装置として知られていて、視床下部、大脳基底核、脳幹、延髄などの神経核と連絡して、血圧、発汗、脈拍、呼吸などを瞬時に切り替え、忌避行動を起こして、生命活動を維持している。」 この本は、ほんま、勉強になる。患者さんの疼痛をなんとかしようと日々悪戦苦闘している我々医療者が視野狭窄にならない導きとして。もっと広くは脳科学の復習のすごいガイドになってる。 だが、この扁桃体についての記述を読んで、僕がすごく触発された思考は、もっと社会的な拡がりがある! 差別扇動って、脳科学的にいうと、この扁桃体を巧妙に刺激して、大衆をトンデモな方向に連れて行ってしまう手練手管なんじゃないか! というか、「革命」だろがファシズムだろうが、成功した大衆動員って、人間の脳の扁桃体をいかに操るかだったんじゃないかなという極論を抱いてしまったのである。 エサやセックスや孤独の回避やについて不満があり怒りを抱えてしまった人々に巧みに近づいて、デマを吹き込んで恐怖を煽り立てて扁桃体を過活動状態に仕立て上げたら、大衆はとんでもないことを群れになってやりだしそうだ。 でもね、扁桃体の過活動状態は、個人にとっても不幸の入り口だぞ。なにかのひょうしに身体に痛みを抱えてしまうことはままあるんだけど、扁桃体の過活動状態で身体に痛みを生じると、それが酷たらしい慢性疼痛に進展していってしまって、ちょっとやそっとのことでは治療困難な状態になってしまうことがあり得る。 人の扁桃体過活動状態をつくるようなやり方は、その目的が何であれ、僕は心底憎みます。
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