ゆめはるか吉屋信子(下) の商品レビュー
下巻は終戦後の話。 吉川英治さんとの対談で、いずれは歴史小説でしょ、と使嗾されたというエピソードが印象深い。 徳川の夫人たちや女人平家等の作品の内容紹介にかなりのページが割かれていて、絵巻のような麗しい世界を楽しませてもらった。あのよしながふみさんの大奥のお万の方の佇まいにも...
下巻は終戦後の話。 吉川英治さんとの対談で、いずれは歴史小説でしょ、と使嗾されたというエピソードが印象深い。 徳川の夫人たちや女人平家等の作品の内容紹介にかなりのページが割かれていて、絵巻のような麗しい世界を楽しませてもらった。あのよしながふみさんの大奥のお万の方の佇まいにも、どこかに吉屋さんの影響があると感じる。後輩にやさしく、純文学と大衆文学の違いについて思うことのあった吉屋さんのことだから、漫画というジャンルであのような作品が生まれたことを知ったら、喜ばれるのではと思う。 吉屋さんは、多くの資料と向かい合い、歴史上の人物を題材に、凛とした最高の貴婦人を描き出すことに、晩年の残り少ない時間をかけたのだろう。そして、同じように多くの資料と向かい合い、田辺聖子さんは、文筆業に生きた女性を描き出そうとされたのだろうか。この作品では、何度も、吉屋さんと田辺さんが二重写しに見えた。 あの小林秀雄さんの吉屋信子さんの作品への批評、そして、吉屋信子さんの杉田久女さんの描き方に対して、田辺さんは、作中でとても理知的に厳しく非難されている。敬愛する人だからといって盲従せず、過ちがあればその事実を受け止め、そして、過ちがあったからといって敬愛は失わない。同じ道を行く後輩だからこそ、なおさら、そうあるべき・・・ペンを持つ者としての田辺さんの矜持、厳しさ、崇高さを感じるところです。 どんなに立派な人も過ちを犯し人をひどく傷つけることがある、だからといって、その人を全否定したり罵声をあびせていいものではないと一般人としても心に置くことにします。 最後まで、吉屋信子さんのすごみ、そして、田辺聖子さんのすごみを感じた作品でした。
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少女小説から出発した信子は歴史小説へ辿り着く。晩年ますます佳作を送り出し筆を擱くことのなかった作家の本格評伝、全三巻完結。〈解説〉上野千鶴子
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