沈没船で眠りたい の商品レビュー
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ある物体において、それを構成するパーツが全て置き換えられたとき、過去のそれと現在のそれは「同じそれ」だと言えるのか否か、という問題(同一性の問題)をテセウスの船というらしい。わが中日ドラゴンズは、監督や選手が入れ替わっても中日ドラゴンズなので、大枠が同じなら同じでしょ? でもドラゴンズが人間だったら? 人間がパーツを人工物に変換していった先で、どこまでが人間なのか?脳をアップロードできるようになったら、意識が同じなら同じ人なのか? 機械(ロボット)が人間の仕事を奪ってしまったディストピアという設定。主人公の 奥平千鶴の狂気にはついていけないが、親友となる美住悠の恐怖は共感できるかも。入院して体のパーツが段々とロボット化していく様が淡々と描かれており、不気味な外見変化が想像される。 メーンストーリーとは別に、最も注目した台詞は活動家の有村のもの 「ネットで僕らの活動を嗤う人たちは(中略) ネットのみんなや、社会の空気、回答エンジンがそう言っていたかと、つまり人々はもう、自ら思考できていないんだ。(中略)それによって醸成された世論が世界の真実だと思っている。(中略)僕らはすでに誰かが選んだ情報しか手に入れられない状況にいる」 兵庫県の斉藤知事を巡る画一化報道をみて、反対意見をする人が炎上するありさまをみて、今の日本の世論とよばれるものが、小説世界と同じディストピアと思わざるを得ない。
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この作品について、シスターフッドものと書いている人もいるが、これってシスターフッドとは違うんじゃないかな。どちらかといえば、百合だと思う。 百合とはいえ、千鶴がどうしてそこまで悠のことが好きなのかが最後まで読んでもいまいち伝わってこなかったです。悠から千鶴への感情も…。 義肢...
この作品について、シスターフッドものと書いている人もいるが、これってシスターフッドとは違うんじゃないかな。どちらかといえば、百合だと思う。 百合とはいえ、千鶴がどうしてそこまで悠のことが好きなのかが最後まで読んでもいまいち伝わってこなかったです。悠から千鶴への感情も…。 義肢や義体が開発されて、人間の身体を機械化することができる世界で、身体が機械にどれほど置き換わっても同一の人間といえるのか─というのがテーマのSF。テセウスの船の思考実験が例として何度も出てくる。 デモや社会活動について、めちゃくちゃ否定的な感じが読んでて辛かった。そこまで有村君を馬鹿にしなくてもいいんじゃ。千鶴が母親を嫌悪するのは分かるが、妹に対してそこまで冷たい理由がよく分からなかった。
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最近のAIを扱った小説の中では出色の出来。主題の重さの表現手法が素晴らしすぎる。巻末の一文がダメ押し。
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今から約20年後の近未来を舞台にした小説。AIが実用化され、テクノロジーも高度化したが、人々の暮らしは豊かになったとはいえなかった。機械に仕事を奪われたとして、ネオ・ラッダイドと呼ばれる反機械運動をする者もいた。 本書の主人公・奥平千鶴は22歳の女子大生。彼女はネオ・ラッダイド運...
今から約20年後の近未来を舞台にした小説。AIが実用化され、テクノロジーも高度化したが、人々の暮らしは豊かになったとはいえなかった。機械に仕事を奪われたとして、ネオ・ラッダイドと呼ばれる反機械運動をする者もいた。 本書の主人公・奥平千鶴は22歳の女子大生。彼女はネオ・ラッダイド運動に関与し、1体のヒューマノイドを抱えて海に飛び込んだ容疑で逮捕された。彼女はなぜそんな運動に関わったのか。事件から時間を遡り、彼女の人物像を浮き彫りにしていく。 たぶんSFというジャンルにくくられるのだろうが、それだけで拒否反応を起こす人もいることを考えると安易なジャンル分けはしたくない。この作品はSFではあるが、ミステリーでもあり、青春小説でもある。そしてなによりも究極のシスターフッド小説なのだ。 デストピアを描いた作品として秀逸で、ロジックの組み立ても見事だった。 8/3、NetGalleyにて読了。版元指示により、刊行後にレビューをアップした。
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