死と乙女 の商品レビュー
読みふけるあまりに駅を乗り過ごす、という経験を久しぶりにした。1973年にチリで起きた軍事クーデタ。その後続く軍事政権下で拉致され、その身体を蹂躙され続けた女性は、国が民主主義へと移行していくなか、偶然に目の前に現れた男が、かつて自分をなぶりものにした男であると信じ、復讐を企て...
読みふけるあまりに駅を乗り過ごす、という経験を久しぶりにした。1973年にチリで起きた軍事クーデタ。その後続く軍事政権下で拉致され、その身体を蹂躙され続けた女性は、国が民主主義へと移行していくなか、偶然に目の前に現れた男が、かつて自分をなぶりものにした男であると信じ、復讐を企てる。彼女の夫はいまや政府の役員であり、己の立場を失うことを恐れて妻の企てを止めようとするが、妻は、かつて夫が性欲のおもむくまま娼婦と幾夜もまぐわったことに今でも傷つき続けており、夫を責め立てる。そんな過去のことなど忘れてこれからを生きようじゃないかと夫も囚われの身の男も繰り返し言うが、彼女がその身を男たちに犯され続けたことによる傷は、忘れることも、過去のものとして片付けることもできないほど深い。レイプという犯罪に対する男女の向き合い方の絶望的な差。目には目を、という彼女の行動は、未来へは向かわず、憎しみの連鎖しか生まないけれども、それを我々は愚かと嘲笑うことができるのか。同様のことは、チリにとどまらず、2023年の今現在、世界中のあらゆるところで起きているのではないか。
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