ゆめはるか吉屋信子(中) の商品レビュー
中巻は、生涯のパートナーと出会い、本格的に小説家として歩みだす頃から。洋行の話などに、女の子に戻ったみたいにどきどきする。今の海外留学よりはるかに特別なことで、夢の源流をこの目で確かめにいくわけだから。 この作品は、大正から昭和にかけての文学史、文壇史、歴史を描いてもいる。その...
中巻は、生涯のパートナーと出会い、本格的に小説家として歩みだす頃から。洋行の話などに、女の子に戻ったみたいにどきどきする。今の海外留学よりはるかに特別なことで、夢の源流をこの目で確かめにいくわけだから。 この作品は、大正から昭和にかけての文学史、文壇史、歴史を描いてもいる。その背景があってこその吉屋信子なのだし、女性へのまなざしや、根っこの部分が見えてくるのだろう。先ほどの洋行の話が出てきたかと思うと、大逆事件に触れられたりする。政府にとって都合の悪い人間を共にいた幼児とともに殺してしまうやり方にぞっとする。やがて、日本は戦争に突入していき、ペン部隊としての従軍についても描かれる。林芙美子さんの行動力に唖然となる。 そうそう、信子が書いた作品の中の朝の主婦の描写は、田辺さんにとってだけでなく、私にも興味深い。忙しく朝食の準備をしているところに、夫から着ていきたい服が準備されてないと言われ、洗濯から返ってきた服にあわててアイロンをかけている一方で、夫は朝食に文句を言ったり、靴が磨かれてない等とぶつくさ言うシーンなのだ。男性と夫婦生活を体験したことのないはずなのにこんなのが書けるなんて、なんという想像力なのだろうと思い、アンテナを立て、周りの女性たちの声をすくい上げていたのかと思う。 田辺聖子さんは、膨大な資料と向かいあい、少女の頃からの憧れの人、そして、大先輩にもあたる人の実像を描き出そうとされたのだろう。そのことにも胸が熱くなる。
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大正九年、長篇小説が認められた信子は流行作家の道を歩み始める。林芙美子や宇野千代、パートナー門馬千代らとの交流を描く本格評伝にして近代女性文壇史。
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