海のアイヌの丸木舟 の商品レビュー
先住権を取り戻すために立ち上がり、国や大学と戦うアイヌの人々を追ったドキュメント。 これは大変な労作でした。各種資料や取材はおそらく膨大で、そこから丁寧に文章を紡いで編み上げられた本だと思います。資料からの引用も丁寧で、特にインタビュー記事では話し言葉をかなりそのまま載せている...
先住権を取り戻すために立ち上がり、国や大学と戦うアイヌの人々を追ったドキュメント。 これは大変な労作でした。各種資料や取材はおそらく膨大で、そこから丁寧に文章を紡いで編み上げられた本だと思います。資料からの引用も丁寧で、特にインタビュー記事では話し言葉をかなりそのまま載せているので臨場感もありますし、話し手の人柄まで分かるようで、しかしその分テープ起こし(僕にとっては一番嫌いな作業)も大変だったのではないかと思いました。 さて、マンガや国立博物館の開業によってここ5年ほどでにわかに注目を集めるアイヌ民族ですが、フィーチャーされる多くはその独特の文化や精神性であって、歴史や和人との関わりについて詳しい人というのは多くないかもしれません。国や行政が文化面をことさらに取り上げたがるのは、その独自性をコンテンツとして売りたがるクールジャパンの亡霊のような国の意図が感じられます。しかしその背景にある先住民としての権利「先住権」やそこへの国の責任については一貫して無視しているように見えます。こうした国のしてきたきたこと、していることについて問う、というのがこの本の明確なテーマです。 本書ではラポロアイヌネイション(旧浦幌アイヌ協会)の、遺骨返還訴訟や先住民としての漁業権の回復を目指して国と戦う姿を縦軸に、戦後からアイヌがどのように国と戦ってきたのかを丹念に追い、海外の先住民問題の対応も織り込みつつ骨太に掘り下げられています。決して中立の視線ではないのでその点は注意が必要ですが、それでも国がアイヌ民族から分捕ったものを「返す気はない」という意図がはっきりと流れの中で感じられて、のらりくらりとアイヌの人々の言葉をかわして向き合わない国や大学の対応には怒りを禁じ得ませんでした。先住権を取り戻す戦いは実はようやくスタートラインに立った(立てた)ところにすぎないかもしれませんが、これからも訴訟の行方などを含めて注目していきたいと思いました。多様な価値観が大切というならば、和人もアイヌの人々も自分たちが自分たちらしく暮らせる日本というものを目指して欲しいものです。
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