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ひそやかな歳月 の商品レビュー

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2023/12/16

チェコの作家というと、古くはカレル・チャペック、少し新しいところではミラン・クンデラあたりが有名だが、アレナ・モルンシュタイノヴァーなんて作家は知らなかった。奥付けによるとチョコでは人気の現代作家のようである。 決して明るい話ではないが面白く読めた。 この小説は1935年生まれの...

チェコの作家というと、古くはカレル・チャペック、少し新しいところではミラン・クンデラあたりが有名だが、アレナ・モルンシュタイノヴァーなんて作家は知らなかった。奥付けによるとチョコでは人気の現代作家のようである。 決して明るい話ではないが面白く読めた。 この小説は1935年生まれの父親と1980年生まれのその娘を主人公としてそれぞれの視点で交互に語られる物語である。娘は父親に愛されておらず、娘は父親に心を開いていないことがわかる。それがなぜなのかは分からず読者は戸惑う。しかし読み進めるうちにその二人の間の溝がなぜ生じたのかが明らかになってくる。 父親の最初の妻はピアニスト、その娘もピアニストであったのだが、妻と最初の娘は不幸な事件がきっかけで父親の目の前からいなくなる。二人の不在は二番目の娘には伏せられている。この作品は、父と娘を中心に据えつつ、父の母、最初の妻、二度目の妻、父の姉妹などの人物を描くことで、作品に奥行き与えている。 この作品の特徴は沈黙あるいは会話による問題の解決が見られない点にある。父も決して饒舌ではなく、ただただ共産党の方針に忠実であろうとしている。娘は身振りや表情で伝えようとしているのだが父親には伝わらない。二度目の妻はコラージュが自己表現の方法である。  物語は二人の視点でそれぞれ交互に語られるが、読み進むうちに、二十世紀後半から二十一世紀にかけてチェコの政治情勢や経済情勢がどう変化し、人々がどう翻弄されたのかがわかる構想になっている。 作品の中で、経済的豊かさはあまり追求されていない、それより音楽であったりコラージュのような美術作品であったり、庭仕事のような個人的な趣味嗜好が登場人物が大切にしていることがわかる。これらは生きづらい社会から逃避するための手段というより、それらにすがりながら懸命に生きているチェコの市井の人々の生き様もそのものなんだと思った。

Posted byブクログ