パチンコ(下) の商品レビュー
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子の世代ではなんとかこの窮状から抜け出してほしいという親世代の強い願いが何度も書かれていて、子にとっては重責だろうなと思った。そして願いを叶えるのは簡単なことではないのだと、物語の中で示されることになる。どれだけ真面目で優秀であっても、在日コリアンというだけで日本では差別され職がなく、さまざまな場面で理不尽な目に遭ってきたということを、リアルな視点で読むことができた。知らなければ想像もできないことだ。 人種や生まれに関係なく良い人もいれば悪い人もいて、どの国にも色んな面があることが丁寧に描かれていた。一方的に善悪を決めつける書き方はされておらず、登場人物たちがそれぞれの立場でものを考えている。現実の多種な問題に対する読者の意識を刺激し、考えさせられる内容になっていた。 ノアは正当に認められなければと思うあまり、自らも差別をしてしまう状況になっているのが悲しかった。たとえばモーザスの職業についても、ノアは良く思っていないようだった。人並みの日本人になりたがったノアの苦悩は計り知れない。なにか別のものになる必要はなく、自分が自分のまま生きられる国にならなければいけないと思う。 人生はパチンコのようだとはいえ、あまりみんなが運命に振り回されてほしくないと願ってしまった。そんな読書体験だった。
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在日コリアンがベースにはなっているけれども、それはあまり重要ではなく、どちらかと言うとアジア版のアンナ・カレーニナ。燃えるような恋、幸せな家庭、別れ、子供、自殺、死別、といった人生で起こることが詰まっている本。パチンコというタイトルが勿体無い気はする。
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下巻は1955年から1989年までの話。 二人の男の子を抱え、お菓子を作って屋台で売る生活。相変わらず忙しくて生活に追われているソンジャ。 夫の兄ヨセプは長崎で被爆して寝たきり。 でも子供たちも大きくなり、長男は学問、次男は商売の道に進み始め、明るい兆しが見え始めてきたが、その間...
下巻は1955年から1989年までの話。 二人の男の子を抱え、お菓子を作って屋台で売る生活。相変わらず忙しくて生活に追われているソンジャ。 夫の兄ヨセプは長崎で被爆して寝たきり。 でも子供たちも大きくなり、長男は学問、次男は商売の道に進み始め、明るい兆しが見え始めてきたが、その間もずっと長男の父親ハンスの援助が見えないところで行われていた。 やがて長男はその父親の存在を知ることとなり、ソンジャはまた奈落に突き落とされるごとく絶望の淵に立たされる。 次男はパチンコ業界で、誠実にコツコツと努力を重ね順調に業績を伸ばしていくが、在日=パチンコという図式は日本人には色眼鏡で見られてしまう。 どんなに謙虚で、実直でまじめにやっていてもそれは払しょくされない。 アメリカの大学を出て教養を身に着けた我が息子には継がせたくない。 でも結局息子はアメリカより日本で生きることを選択し、仕事を手伝うことに。 何年日本で暮らしても、日本で生まれ育っても在日コリアンという出自は彼らを苦しめる。 パチンコとはその生業からきているタイトルだが、はじかれた球はどこに飛ぶかわからない、自分の意志ではどうにもならない。という意味合いでもあるようだ。 この物語は何かを求めて朝鮮半島からやってきた、ある一族の話だ。
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三世代に渡る在日コリアン一家の話で、物語が終わる年に生まれたのは縁を感じます。実際的に知りたかった両親や祖父母のこと、全然違う経緯ではあるけど同じく過ぎた時間について学べました。ノアの終わり方に驚きすぎて、え、え、え、え、と声に出して動揺したけど追いつかなかった。そしてそれからの...
三世代に渡る在日コリアン一家の話で、物語が終わる年に生まれたのは縁を感じます。実際的に知りたかった両親や祖父母のこと、全然違う経緯ではあるけど同じく過ぎた時間について学べました。ノアの終わり方に驚きすぎて、え、え、え、え、と声に出して動揺したけど追いつかなかった。そしてそれからのことも。ただとても楽しく読めました。
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「1910年日本が大韓帝国を併合した。」 貧しい漁師夫婦に生まれた一人息子。年頃になり嫁に迎えた働き者のヤンジン。その一人娘ソンジャが主人公。 ソンジャが未婚の母になりかけた時に、結婚し救いだした牧師の夫イサク。二人はイサクの兄ヨセプを頼り大阪に渡る。 ソンジャの息子、ノアと...
「1910年日本が大韓帝国を併合した。」 貧しい漁師夫婦に生まれた一人息子。年頃になり嫁に迎えた働き者のヤンジン。その一人娘ソンジャが主人公。 ソンジャが未婚の母になりかけた時に、結婚し救いだした牧師の夫イサク。二人はイサクの兄ヨセプを頼り大阪に渡る。 ソンジャの息子、ノアとモーザス。ヨセプの妻キョンヒ。そしてノアの実父コ・ハンス。 ソンジャと彼ら、4世代にわたる在日コリアンの家族の物語。 懸命に働きに働いても楽にならない生活。差別と偏見。子供たちが生まれて幸せになったかと思うと、イサクの逮捕やヨセプの悲劇など、次々にどん底に落とされる。ソンジャの人生に入り込む形で喜んだり悲しんだりしつつ一気読み。 NHKの朝ドラ・アメリカのテレビドラマ、同様に途中で止めることはできない。アップルTV連続ドラマになるのも納得。 下巻になる頃にようやく、タイトル『パチンコ』を理解した。 著者の謝辞に記載された多くの方のお名前。構想から30年の歳月をかけた著者の熱い想いを感じた。
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在日の友達がいる。在日3世の彼女は頭がよくてものすごく優しく、しかも美人、その上とっても面白い。今から30年くらい前、出会って数か月経った頃に、日本国籍ではないと知らされて、びっくりし、しかも反応に迷ったことを覚えている。「日本人じゃないんだ」「日本人だと思った」というのは失礼だ...
在日の友達がいる。在日3世の彼女は頭がよくてものすごく優しく、しかも美人、その上とっても面白い。今から30年くらい前、出会って数か月経った頃に、日本国籍ではないと知らされて、びっくりし、しかも反応に迷ったことを覚えている。「日本人じゃないんだ」「日本人だと思った」というのは失礼だし、「そうなんだ」だけだと冷たいかな…等々一瞬のうちに色々頭をよぎり、結局、「韓国語も話せるの?」と聞いた。当時は韓国についての情報もほとんどなく、私自身も無知だったけれど、在日の人を偏見の目で見て差別する人もいるということは知っていたので、ただ、私自身はそうではないということだけ伝えられたら良いなと思った。 彼女の実家もパチンコ屋を経営していた。パチンコ屋を経営することに対して私自身は何も思うことはない(騒々しい場所で働く人は大変だなとは思う)ので、職業差別の対象にもなっていたことに、「世間」とは本当に面倒くさいなと思ってしまった。大勢が遊びに行く場所を経営している人を差別するって、本末転倒というか…変なの。 とにかく、読んでいる間、友達のことや友達の家族のことが思い浮かんだ。彼女の家族もこんな苦労を経てきたのかなと思うと、なんだかやるせないし、友達が理不尽に傷つけられるのは、許せない。 私はなるべくフラットな目で、背景などではなく、その人自身を見て接することを心がけたい。
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何世代にも続く在日コリアンのそれぞれの苦労が描かれていて、故郷とは血や系統か、それとも生きてきた場所で決まるのか...... 国の政治によって自分のアイデンティティが複雑になっていったんだなと思った。 下巻から、続きが気になって怒涛のように3日ほどで読み切った。 この本に出会え...
何世代にも続く在日コリアンのそれぞれの苦労が描かれていて、故郷とは血や系統か、それとも生きてきた場所で決まるのか...... 国の政治によって自分のアイデンティティが複雑になっていったんだなと思った。 下巻から、続きが気になって怒涛のように3日ほどで読み切った。 この本に出会えてよかったと思う。 在日コリアンの心のうちや、政治によって揺れるアイデンティティ、故郷とは何なのか、 知らなかったことがたくさんあった。
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331頁 「とんだ食わせ者だったってこと。聞こえのいいことばかり並べてあなたを油断させた。面倒見のいい大学の先輩みたいなふり、あたなを“かわいい後輩”と思ってる芝居をした。ね、男子学生同士のそういうシステムって、いまもあるの?友愛会の先輩後輩の関係ってほんと気持ち悪い」フィービーはうんざりした表情で天井を見上げた。 ソロモンは呆然とした。三越百貨店の食堂街でカズと挨拶を交わしただけなのに、フィービーはソロモンとカズの関係全体をみごとに要約してみせた。なぜそんな芸当ができるのだろう。
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時は1910年〜1989年、4世代にわたる在日コリアン一家の物語。 1ヶ月ほどかけて上下巻読了。上巻半ばくらいから、すっかりストーリーに入り込んでしまいました。 日本がしてきた差別について心を痛めながら読む物語と覚悟して読み始めましたが、ちょっと違いました。それ以上に、「1人の...
時は1910年〜1989年、4世代にわたる在日コリアン一家の物語。 1ヶ月ほどかけて上下巻読了。上巻半ばくらいから、すっかりストーリーに入り込んでしまいました。 日本がしてきた差別について心を痛めながら読む物語と覚悟して読み始めましたが、ちょっと違いました。それ以上に、「1人の人間として、与えられた環境下でどのような信念を持ってどう生きたいか」を考えさせられる本です。一方で、在日コリアンというルーツが理由で過酷な生活を強いられた人々がいた事実は物語の中でもしっかり描かれており、今まで目を背けていた歴史とも向き合うことができました。
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久しぶりに骨太の名作に出会えた。 登場人物が自分の中で今も生きていてフィクションとは思えない読後感。 特に、読者を惹きつけるのはイサクとノア。善人に限って、というか善人だからこそその生涯をあのような形で終えなければならないあたり、悔しさや無力感を覚えた。
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