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塩坊主に惚れたキツネ の商品レビュー

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2023/08/29

うむ、ひたすら可愛らしいお話でありました。 扉絵の〈和尚〉と〈キツネ〉ふたりの気持ちがてんでバラバラすれ違う様子がよく分かる絵がとても素敵。和尚のすぐそばに立てて嬉しそうなキツネの表情がいじらしくかわいい。 命を救ってもらった恩義から和尚に愛情を抱くキツネ♂と、その猛アタック...

うむ、ひたすら可愛らしいお話でありました。 扉絵の〈和尚〉と〈キツネ〉ふたりの気持ちがてんでバラバラすれ違う様子がよく分かる絵がとても素敵。和尚のすぐそばに立てて嬉しそうなキツネの表情がいじらしくかわいい。 命を救ってもらった恩義から和尚に愛情を抱くキツネ♂と、その猛アタックに全くピクリとも靡かない和尚♂。 あの手この手で和尚に同衾を迫るキツネとまるで相手にしない和尚、ふたりの微笑ましい様子をほのぼの眺めて楽しむ作品。 が、キツネの「好きな奴と寝たいのは当たり前だろ? オレそんな長生きできないし」(p37)という言葉は思いがけず深い。人間の時間とキツネ(又はその他の動物)に流れる時間は同じではないから、だからキツネにとっては’今’を一番に精一杯生きている訳で、ただ笑い飛ばす訳にはいかない。野生のキツネの寿命は4、5歳くらいらしいので、ひょっとしたら作中のキツネもそれに近い年齢なのではないだろうか。 かたやの和尚は、言葉では「抱くわけなかろう畜生など」(p7)と一切合切の可能性のかけらすら見せない上にキツネに対する本心も全然よくわからない。恐らくは、キツネが人間の女性の姿に化ける事でかりそめの肉体関係を結ぶ事は出来るかもしれないが、たぶん子を成したり種を残す事は出来ないと思われるので、その辺りをお坊さんらしく’のめり込むのはいかん事だ’というのを塩対応であしらっているのではないだろうか。ただの嫌な性格というだけかも知れないが。 後半に行くにつれ意外な程のシリアスを迎えるのと、ちょいちょい横文字言葉が入ってきたりしたのが個人的には刺さらず。例えば「口吸い」「キス」が同じコマ(p50)で使われているのも統一感が無く見えたのと(そういう、相手の言葉を拾って言い直しをしちゃう和尚の面倒臭い性格表現な気もするけど。飲食店でいうご飯とライス問題のような)、ちょっとメタフィクションネタを使い過ぎな気もする。〈お詫びと訂正〉でのセルフ作画間違いイジりは良かったが「話しかけたら絶対にイベント始まるタイプのアイコン」(p39)という脈絡のない喩えとかはちょっと違和感。だったら何故和風昔話の世界観を持ってきたのか、という気がする。 健気なキツネの姿にキュン。愛するペットがもし人間に化けて自分に求愛してきたら、とか想像すると楽しいかも知れない。 1刷 2023.8.27

Posted byブクログ