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ラジオと戦争 の商品レビュー

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2024/08/16

1925年、日本で初めてラジオが産声をあげる。 それ以降、ラジオの役割は大きくなり、唯一の放送機関である日本放送協会は、政府に取り込まれていく。中にはリベラルな考えの矜持を持って取り組む人もいたが、徐々に軍国主義化していくなか、完全に御用放送機関となる。 例えば、陸軍中将・堀内...

1925年、日本で初めてラジオが産声をあげる。 それ以降、ラジオの役割は大きくなり、唯一の放送機関である日本放送協会は、政府に取り込まれていく。中にはリベラルな考えの矜持を持って取り組む人もいたが、徐々に軍国主義化していくなか、完全に御用放送機関となる。 例えば、陸軍中将・堀内文次郎は「大和民族の覚悟」という講演で、「利巧らしく平和主義などを唱えている新しがり屋」を驚倒していたし、陸軍戸山学校長・等々力森蔵は「国力と体育」と題して、体育をないがしろにしてきた結果、「外国の宣伝菌にも直ぐ侵され、思想病に権」る者が増えてしまったと嘆いている。 一方日本の社会主義運動の先駆者の一人である安部磯雄は、政治は社会的弱者のためにこそ力を注がなければならないのであり、それこそがデモクラシーの精神であると主張。婦人運動家の久布白落実は、1921年、国際連盟で「婦人及児童ノ売買禁止二関スル国際条約」が採択されたが、日本政府は、禁止の対象を21歳までの女性から18歳までの女性に変更すること、また台湾・朝鮮などの植民地の女性には適用しないことの2つを批准の条件にしようとしていたことに対し、「これで日本は、自ら進んで人道上、特殊国に陥りました」と糾弾している。 このように、少なくともラジオにはまだ多様性が担保されていた時代があったのだ。 戦時中、完全にコントロールされた報道は、日本軍がミッドウェー、ガダルカナル、アッツ島、サイパン、硫黄島、そして沖縄戦で、惨憺たる敗北、玉砕をするも、皇国日本は敵にダメージを与えているとか、勇ましい死に様は、敵の戦意を喪失させるなどのプロパガンダで、国民を鼓舞することに徹する。 そこには、真実を報道すると言う本来の役割は、完全に排除されている。 もちろん、現代はラジオの持つ役割は小さいが、ジャーナリズムとしての役割は、過去以上に大切だと感じる。また、そう感じさせてくれる書だろう。 NHK において、従軍慰安婦の問題について考えようとした『ETV2001」の編集作業の最終段階で、NHK上層部の人間(通常は別番組の編集に口を出すことはない立場である)が安倍晋三内閣官房副長官(当時)と会ってその番組について話をしたあと、幹部が制作現場に編集の変更を命令し、その結果、被害女性の証言や、昭和天皇および日本政府の責任に言及した部分などが削除されている。番組の担当デスクは2005年に記者会見を開き、改変の経緯を明らかにした。職員有志は、検証番組の放送を求めて集会や話し合いを重ねたが、結局、実現できなかった。 その後、事態の重大性を訴え続けた担当デスクと担当プロデューサーは放送現場以外の部署に異動となり、後に2人ともNHKを去ったとの記載があった。 安倍元首相の子飼いの高市早苗総務相(当時)は、放送法への抵触をちらつかせ、自党に気にくわない放送をする番組への圧力をかけたのは、記憶に新しい。 歴史が繰り返されないようにしなければ。

Posted byブクログ

2024/03/02

 いつも聴いているpodcastの番組に著者の大森淳郎さんがゲスト出演していて、本書についてお話ししていました。  大森さんは長年NHKでディレクターとしてETV特集等を担当していた方です。  本書は、その大森さんが、NHK放送文化研究所の月刊誌「放送研究と調査」で連載した記事を...

 いつも聴いているpodcastの番組に著者の大森淳郎さんがゲスト出演していて、本書についてお話ししていました。  大森さんは長年NHKでディレクターとしてETV特集等を担当していた方です。  本書は、その大森さんが、NHK放送文化研究所の月刊誌「放送研究と調査」で連載した記事をまとめたもので、太平洋戦争当時、ラジオ放送に関わった「放送人」が何を考え、どう行動し、何をしなかったのかを貴重な証言や音源から顕かにしていくノンフィクション作品です。  丹念な取材にもとづく力作で、読み応え十分です。

Posted byブクログ

2024/02/20

戦時中に仕事としてラジオ放送に関わった当事者が、自分達の見聞きした事を後世に伝えたいと思ってもその立場や経験の違いから話せる人と話せない人がいるだろう。なにより死者は伝えたくてもできない。戦時中、“伝える”を仕事にしていた人達の仕事内容、のちにNHKとなる組織のなりたちを時系列に...

戦時中に仕事としてラジオ放送に関わった当事者が、自分達の見聞きした事を後世に伝えたいと思ってもその立場や経験の違いから話せる人と話せない人がいるだろう。なにより死者は伝えたくてもできない。戦時中、“伝える”を仕事にしていた人達の仕事内容、のちにNHKとなる組織のなりたちを時系列に沿って検証し、当事者に取材した貴重な証言の数々はこれまで映画や小説から受けていた検閲の印象とは違いとても興味深い。当初は分厚さに怯んだが(資料等は適宜読み飛ばしつつ)初めて知る事、当時ラジオ放送が果たした役割の大きさに驚き、AMラジオが今年2月から順次廃止されるという時期、しかもチャーチル評伝の次に図書館リクエストの順番が回ってきたという偶然の巡り合わせも感慨深い。

Posted byブクログ

2023/10/06

歴史修正主義にまんまと乗ってしまう人、 国の施策・サービスを知らないがために受けられるべき支援を受けられない人がいる。 自分は本を読んだり情報を自分から取りに行くことで何とかついて行っていると自負するけれど、 世の多くの人は、何も知らず、世の中に流される。 電車の中で寝ていたり、...

歴史修正主義にまんまと乗ってしまう人、 国の施策・サービスを知らないがために受けられるべき支援を受けられない人がいる。 自分は本を読んだり情報を自分から取りに行くことで何とかついて行っていると自負するけれど、 世の多くの人は、何も知らず、世の中に流される。 電車の中で寝ていたり、スマホゲームに没頭したりしている。 つくづく、教育の必要性を感じる。 今の文科省の教育ではない。 生きていくための教育、リベラルアーツだ。 しかし、さて、どうやって? と考えたとき、戦前はラジオ、戦後はテレビがその手段であったのだ、と気づく。 テレビの視聴率、紅白や大相撲で80%を超えた、なんて聞いたことがある。 その放送の内容が国民の頭脳にもたらすものは大きいはずだ。 今ではメディアが多様化し、朝ドラでも視聴率は20%。 国民が同じものを見る、ということはまずない。 ましてラジオ、、最近podcastにより独自の世界を開拓しているとはいうものの、 影響力は小さい。 ただ。戦前はラジオだけだった。 そのラジオが国民に何をもたらしたか。 それを描いたのがこの本だ。 当時のラジオの原稿は敗戦でほとんど燃やされ、録音もわずかしか残っていない。 それを個人で録音機で作って、大本営発表を録音していた人に出会うところからこの本は始まる。 ラジオとして、不利な戦況をいかに表現して国民の戦意を鼓舞するかに腐心した当時のNHK。 アナウンサーの口調。 報道ではなく「報導」という言葉にドキッとする。 これだけでもお腹いっぱいだが、この本はさらに、個人を描く。 詩人、放送編集者、、、 もともと持っていた理想からどんどん離れていく自分の仕事。 忸怩たる思いがあったか、魂を売ったか。 しかしあの戦況下で何ができたか。自分ならどうしたか。 さらに本は戦後を描く。 GHQによる検閲。自由の国のチェックと表現していた。 しかし広島原爆の状況については一切放送させない。 GHQが撤退する1950年、今度は国がNHKにちょっかいを出す。 自衛隊の前身の創設を茶化す番組をやめさせる。。。 そして今。安倍政権は従軍慰安婦ドキュメントを骨抜きにした。 歴史修正主義。 あ、最初に戻ってしまった。 放送の影響は戦前とは違うとはいえ、腐っても鯛。 事実を事実と認めない国民が増えていく。 朝鮮人虐殺しかり。 いや、もしかしたら今まさに行われている入管の人権侵害も、 「悪い外国人を追い出すのは正しい」と信じている人も多いかもしれない。 NHKの役割は小さくない。

Posted byブクログ

2023/08/27

「終戦の日に考える。戦争でラジオは何を伝え、何を伝えなかったのか」ゲスト:大森淳郎さん▼2023年8月15日(火)放送分 https://www.tbsradio.jp/articles/73543/ 毎日新聞 2023.8.27朝刊 加藤陽子 評

Posted byブクログ