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風土のなかの神々 の商品レビュー

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2023/10/28

哲学の研究者であり、社会的合意形成のためのファシリテーターとして実践活動をおこなってきた著者が、日本の神話と風土について論じている本です。 著者はこれまで、公共事業をめぐる地域住民のセッションなどに参加し、合意形成のための活動をおこなっています。本書の前半では、それらの著者の体...

哲学の研究者であり、社会的合意形成のためのファシリテーターとして実践活動をおこなってきた著者が、日本の神話と風土について論じている本です。 著者はこれまで、公共事業をめぐる地域住民のセッションなどに参加し、合意形成のための活動をおこなっています。本書の前半では、それらの著者の体験を振り返りつつ、風土に根ざした文化や信仰と調和するような街の整備・開発・保全のありかたを発見することの重要性が論じられています。 ここで著者は、「空間の価値構造認識」という考え方を提出しています。これは、「空間の構造を認識する」「空間の履歴を掘り起こす」「人びとの関心・概念を掴む」という三つの項目から成っており、これらの三つの観点から公共事業をめぐってさまざまな関係者が合意形成にいたる道筋が模索されなければならないと著者は主張しています。 後半では、日本神話をめぐって著者自身の考察が展開されています。アマテラスとスサノオがそれぞれの「ものざね」を交換して神々を生んだことに著者は注目し、それを持統天皇と天武天皇にかさねて、この物語が皇統の前例となっていることを指摘しています。さらに、記紀神話のなかにいわゆる出雲神話が内包されていることや、武烈天皇の残虐な行為についての記述についても考察をおこなっており、「おそれとそなえ」をわすれてはならないという教訓を示すことが神話の編纂者のねらいであったと主張するとともに、自然災害などのリスクにそなえることの重要性を示している点に、その現代的な意義を見いだそうとしています。 公共事業にかかわりながら、風土のなかに生きる信仰のありかたに注目するという著者の立場は独特のもので、それじたいは興味深く感じたのですが、それが「記紀神話」のうちに含まれる教訓を解明するという本書の目標に直結するものなのか、疑問をおぼえるところもあります。

Posted byブクログ