二度死んだ女 の商品レビュー
ベックストレーム警部シリーズの最新刊。警部と同じアパートに住む少年が、キャンプ先で見つけた銃弾の残った女性の頭骨から始まる事件。頭骨から取り出したDNAの照合から、その女性がすでに別の場所で死に、埋葬されていたことがわかる。果たして、その女性は誰なのか。。。 著者の書き方なのだ...
ベックストレーム警部シリーズの最新刊。警部と同じアパートに住む少年が、キャンプ先で見つけた銃弾の残った女性の頭骨から始まる事件。頭骨から取り出したDNAの照合から、その女性がすでに別の場所で死に、埋葬されていたことがわかる。果たして、その女性は誰なのか。。。 著者の書き方なのだろうが、ベックストレーム警部と彼を取り巻く登場人物たちの言動の賑やかさに比べ、捜査の進展も犯人と目される人物の行動も淡々と語られる。そのため、捜査を仕切るサボりの常習者である警部の役立たずぶりや、周りの人たちの細かな言動の描写の多くが、あまり事件解決にリンクしない。悪く言えば無駄な描写が多いのだが、これにより主要な登場人物たちのキャラ立ちには大きく貢献しているのだ。ストーリーが進むにつれて事件は大きな国際犯罪の姿を見せてくるのだが、その重い場面はサラッと語られることで、エンタメの要素が前面に出てくる。このストーリー展開の2面性が、本書の魅力の核となっていると言える。 後書きにあるが、著者が高齢でシリーズの続刊は出ない見通しのよう。何らかのシリーズの決着が欲しいところだが、さてさて。。。
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北欧ミステリーのジャンルの広さを示すようなベックストレーム四部作の完結編。当初、ガラスの鍵賞を獲得した『許されざる者』でこの作家が気に入ったものの、本書のベックストレーム警部は、腕利きではあるものの酒と美女をこよなく愛するモラルの少し欠如したお笑い系キャラクターである。 ち...
北欧ミステリーのジャンルの広さを示すようなベックストレーム四部作の完結編。当初、ガラスの鍵賞を獲得した『許されざる者』でこの作家が気に入ったものの、本書のベックストレーム警部は、腕利きではあるものの酒と美女をこよなく愛するモラルの少し欠如したお笑い系キャラクターである。 ちなみに『許されざる者』はふざけたところなど一切ない心打つ傑作であり、その主人公ヨハンソンのキャラクターは、忘れ難い。しかも同名の名作映画もぼくは好きである。バート・ランカスター&オードリー・ヘップバーンの1960年版の映画は特に。クリント・イーストウッド監督主演の1992年のもの、それを開拓期の北海道を舞台にリメイクした李相日監督の渡辺謙主演版日本映画作品も、それぞれ忘れ難い映画である。ペーションの日本デビュー作品は、それらとは同名にして全く異なるシックな警察小説であった。 しかし本シリーズは、ミステリを主体にした警察小説でありながら、ベックストレームという経験豊富な警部による、実に快楽主義的な生活の日々と、優れた捜査感覚という相いれない二つの特性を持つ主人公を据え、それにも増した個性豊かな捜査スタッフたちによる執念の捜査が実を結んでゆくコミカルかつ熱心な模様が軽妙と重厚をクロスさせてなお面白い。何だか趣味じゃないなあと思いつつも、とうとう全四作読まされてしまったリーダビリティと、小説の核となるミステリ部分が優れているところがこの作家の個性である。 何を隠そうペーションという独自なこの作家は、長年に渡りリアルな捜査畑にいた経験豊富な警察人生の後半より作家デビューした人である。なので捜査のリアリティ、捜査チームの持つ活気のような独特な気配をこの作家は活き活きと描くのだ。 さて本書では、少年が無人島で見つけた古い頭蓋骨を警察署に持ち込むところから始まる。ベックストレームはふざけたなまけ癖のある男でありながら、周囲の人間に好かれるところがあり、少年との交流シーンや、真剣に頭蓋骨の主を捜査しようという姿勢にはとても好感が持てる。頭蓋骨を調べるうちに、タイのプーケットの大津波で犠牲になった女性のものであることがわかる。 プーケットに旅行に出ようとした矢先に津波の情報を得て腰を抜かしていた元の職場の同僚の顔をぼくは想い出した。悲惨な津波による被害者は少なくなく、あの時の犠牲者が北欧ミステリーに登場するなんて思いもよらないことである。でもリアリズムとユーモアを混然とさせるこの老練な元警部であり実績のある作家ペーションの筆でその不思議な頭蓋骨の正体を探ってゆく、本作の骨格は驚くほどしっかりしている。地道な捜査による地味な本で、ベックストレームという特異なキャラを描くための寄り道も多い小説であるが、何となく読まされてしまうのだ。 時にはにやりと苦笑いを交えながら、老練なユーモアと考え抜かれたミステリーという骨子に支えられたこの物語は、ぼくの日常に交錯する奇妙な香辛料のように、印象的に刺さってくるのだった。
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『許されざる者』が良かったので新作が出るたびに読んではいたが、ベックストレームのキャラクターが苦手で今ひとつ…という印象だった。のだが、今回のベックストレームは少年とのやり取りも素敵で、他の登場人物たちの会話のやり取りもテンポ良く、丁寧に事件を解決していく様も読んでいて楽しかった...
『許されざる者』が良かったので新作が出るたびに読んではいたが、ベックストレームのキャラクターが苦手で今ひとつ…という印象だった。のだが、今回のベックストレームは少年とのやり取りも素敵で、他の登場人物たちの会話のやり取りもテンポ良く、丁寧に事件を解決していく様も読んでいて楽しかった。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
ほどよく複雑で、スウェーデン警察ものらしいチームプレーも心地よく、今回は変人警部の毒も薄めで大変に読みやすく心地よい…と思ったらいきなり最終回ですか。 『許されざる者』とはどうやら別シリーズとして扱うことになったのかな?それが正しい区分かと思います。
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ベックストレーム警部の最終回? 色々物騒がせな警部だし、彼程品行の悪い警部は他にいない位の独特の警部だけど、今回は100パーの思いで彼を応援したかった。彼と一緒に美味しい食事をしたかった。こんなにベックストレームを好きになる日が来るなんて(><)
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まさかこんな時がくるだなんて! 『四部作完結』と帯にある。 最終回というのはあるものだと思っていたが、まさかこのシリーズにくるとは思わなかった。 だってベックストレーム警部だよ? しぶとく「まだいるよ」と呆れられていそうではないか。 事件が出てくるまでが早いのが、今時のミス...
まさかこんな時がくるだなんて! 『四部作完結』と帯にある。 最終回というのはあるものだと思っていたが、まさかこのシリーズにくるとは思わなかった。 だってベックストレーム警部だよ? しぶとく「まだいるよ」と呆れられていそうではないか。 事件が出てくるまでが早いのが、今時のミステリであるというのが、持論である。 とすれば、これは今時も今時、話が始まるなり、事件が呼び鈴を鳴らしてベックストレーム警部のもとにやってくるのだ。 警部を慕い尊敬するエドウィン少年の手によって、銃創のある頭蓋骨が、やってくるのである。 しかし、そこから事件解決にいくまでが、長い。 頭蓋骨の身元がわからなければ、捜査のしようがないからである。 確かにそうだろう。だがーー 『エーヴェルト・ベックストレーム警部は小さくて太っていて狡猾な男。人生において関心があるのは三つだけ。それは酒に女、そして職場に足を踏み入れることなく給料を上げて毎日楽しく暮らすこと。おまけに政治的にはおめでたい馬鹿で、愛国者で、外国人嫌いで、同性愛者嫌いで、その他のあらゆるヘイトの熱心なファンでもある。』(276頁) 彼を知る人物に、こう評される人物である。 ベックストレームはなにもしない。 捜査をするのは、部下たちだ。 優秀なのは、部下たちだ。 その部下たちの功績を、うまくとっていくのだ。 『本人に尋ねれば、捜査を最善の形で進められるように捜査班を率い、任務を振り分けていたと言うだろう。』(489頁) 当然のことながら、その部下に「殺してやる」としばしば思われている。 『誰もやらないならわたしが自分の手を下してでも。』(70頁)と、部下に思われる人物である。 タイ、ツナミ、女性、移民、キリスト教、ロシア、プーチン、etc..... 真面目に読まなければいけない理由はいくらでもある。 背筋を伸ばして、正しい姿勢で、向き合わなければならないと思ってしまう。 しかしそれは間違いだ。 正しいのはツッコミだ。 「なんでやねん」「どないやねん」「たいそうやねん」「そんなアホな」etc.... 殺人事件の捜査が本題だが、その周りをいかに楽しめるか、笑えるかが本筋である。 「お前は働いてないだろ!」と、さあ、あなたもツッコもうではないか。
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