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物ぐさ道草 多田道太郎のこと の商品レビュー

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2024/07/30

 多田道太郎を師と仰ぐ著者が、多田の業績や交友関係をたどりながら、自身と師との関係性を振り返っていく思索の過程が書かれている。多田と山田稔が中心となって一九五八年から一九九六年まで続けられた「日本小説を読む会」での多田の振る舞い。戦争体験を決してストレートに語らず笑いにくるんでい...

 多田道太郎を師と仰ぐ著者が、多田の業績や交友関係をたどりながら、自身と師との関係性を振り返っていく思索の過程が書かれている。多田と山田稔が中心となって一九五八年から一九九六年まで続けられた「日本小説を読む会」での多田の振る舞い。戦争体験を決してストレートに語らず笑いにくるんでいたこと。京大人文研という、共同研究を行う組織にいたが実際のところは多田の体質に共同研究は馴染まなかったのではないかということ。多く残された多田の仕事のなかで著者が特に高く評価する『複製芸術論』と『しぐさの日本文化』が、柳田國男の『明治大正史 世相篇』と、鶴見俊輔の哲学に大きく影響されていること。晩年になって凝った俳句の常套手法である飛躍する着想は、多田自身の発想法と重なること。そこまでたどったところで、著者は、自身と師の関係性が、安心感を抱けるようなものではなく、師に茶々を入れられたり気を削がれたりされ、揺さぶられ続けるようなものであったと気づく。その関係性は師が向こう側へと去り、著者が八十代になった今でも続いているのである。

Posted byブクログ