折鶴 の商品レビュー
いやあ、翻訳ものよりも何よりも、今やこっちの方がよっぽど異世界を味わえるわ! ――と、実感してしまった一冊である。 泡坂妻夫といえば、煙に巻かれたような、狐につままれたような、そんなバカなというか、人を食ったというか、そんな類の「やられたあ!」を味わうのにぴったりな作家である。...
いやあ、翻訳ものよりも何よりも、今やこっちの方がよっぽど異世界を味わえるわ! ――と、実感してしまった一冊である。 泡坂妻夫といえば、煙に巻かれたような、狐につままれたような、そんなバカなというか、人を食ったというか、そんな類の「やられたあ!」を味わうのにぴったりな作家である。 そして、間違いなく面白い。 泡坂妻夫は、ミステリ作家であるが、同時に、奇術師で、紋章上絵師だ。 今まで私が読んだ泡坂妻夫は、奇術師面のミステリだったが、これは紋章上絵師面の作品集だなあというのが、強い印象である。 作品は4つ。 『忍火山恋唄』 『駈落』 『角館にて』 『折鶴』 主人公は模様師、洗張り、漆工、縫箔屋・・・・・・つまり職人である。 そして、驚くべきことに、名探偵がいない。 殺人事件解決が主眼ではない。 だから、がっつりミステリを読みたい、「やられたあ!」「そうきたかあ!」を読みたいという人には、向かない。 『醜いもの粗雑なものには人一倍敏感で、それが一種の習性になっているから、仕事を離れても無意識のうちにものの欠点が目について仕方がない。いいものはそれが当然だと思うから、反って気にならない。従って、あまりものを誉めたことがない。』(34頁) 『雑でいて歯切れのいい早調子は、子供の頃を思い出させた。まだ、その時分にはそういう調子で喋る老人が稀にいたのだ。』(91頁) 職人の世界、気風を見たい人には、ぴったりである。 そして、東京、下町を覗き見たい人にも絶好だ。 泡坂妻夫は、神田の生まれで、紋章上絵師で、つまりは本物の職人なのだから。 口下手で言葉足らずな職人の気風を、プロフェッショナルの作家が著してくれているのがいい。 プロもプロ、著者は泉鏡花賞をとっている。 受賞作はこの『折鶴』だ。 わからないことは多々あるだろう。 新内ってなに? 清元? 洗張り? 端縫い? 檜垣塗? 袷? 絽? なによりその前に、どう読むの??! 着物の言葉、三味線の言葉、きょとーんとぽかーんとな言葉が、たくさん出てくるだろう。 その時に方法は二つ。 そういうこともあるんだな、と流して読むか、スマートフォンで検索して読むかである。 作品が発表されたのは、どれも80年代だ。 スマホも携帯電話も出てこない。 が、彼らは読み手の心強い味方だ。 大丈夫。本にはちゃんとフリガナもふってある。 読み方がわかれば調べることができる。 いちいち検索しながら読むか、そこは流して味わうか、読み方は読者それぞれである。
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がっつりしたミステリを期待した読者には期待外れかな、これは。ミステリと呼んでおかしくない小説は「忍火山恋唄」くらいで、後は職人の世界を背景にした恋愛小説と呼ぶべきでしょう。迂生はそう思って読んだので、楽しみましたよ。その世界を知っている人でないと書けない緻密な描写が美しい。全体に...
がっつりしたミステリを期待した読者には期待外れかな、これは。ミステリと呼んでおかしくない小説は「忍火山恋唄」くらいで、後は職人の世界を背景にした恋愛小説と呼ぶべきでしょう。迂生はそう思って読んだので、楽しみましたよ。その世界を知っている人でないと書けない緻密な描写が美しい。全体に滅びの美学を感じさせるのは、それが現実なんでしょうか。
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