空海と密教 の商品レビュー
なる。前者の「情報」は情報を収集し、止揚し、頒布するといった活動から構成されていて、後者の「癒し」は護国、鎮魂、即身成仏などの人々の心を安らげる活動から構成されている。 機をうかがって適切なタイミングで行動する匙加減や、必要な情報を見定めてそれを掴みに行く取捨選択力。言語や書の技...
なる。前者の「情報」は情報を収集し、止揚し、頒布するといった活動から構成されていて、後者の「癒し」は護国、鎮魂、即身成仏などの人々の心を安らげる活動から構成されている。 機をうかがって適切なタイミングで行動する匙加減や、必要な情報を見定めてそれを掴みに行く取捨選択力。言語や書の技術を短期間でしっかり身につけ、数々の文献を読み解く頭脳、さらに頭だけでなく数々の行法を身につけていく身体のコントロールも一級。人脈力も抜群。そんな超人な空海の人生を出生から入定(死去)まで追っていくストーリーには映画を観るようなドラマがある。 一個人が聖人となるまでの足跡を辿ることから、断絶されていると認識されている神聖な世界と世俗な世界があくまで人間の頭の中での線引きではないことが明確になるし、そこを橋渡ししようとした空海の考えも知れて興味深い。 同時に、当時文明的に先んじていた唐の情報を取り入れていこうとする時の権力者(天皇)達もまた興味深い。天皇個々人よって、どの仏教情報をどの程度取り入れていこうとするかには差異があり、権力闘争のような政治の中の派閥でそれは変わってきた。本書ではサブストーリーであるが、その天皇達の思想や闘争が客観的に知れてよい。 エリートの素質を持っていながらも、権力や名声になびかず、かつ世俗に足を引っ張られたり流されたりしない空海の胆力、バランス感覚には脱帽である。 空海が持ち込んできた密教が護国儀式として最終的に制度化されたのは、信頼を勝ち取った空海の技量と人柄によってしてなるものだろう。
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