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娼婦と近世社会 の商品レビュー

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2024/01/25

 近世の売買春と性愛についての論稿をまとめた一冊。本書の課題を著者は次のようにまとめている。  1 近世社会における売買春の実態を、売買春を成り立たせているさまざまな歴史的条件を含めて明らかにすること。  2 近世の売春観ー当該時期の国家や人々の倫理的判断・倫理的対応がどのような...

 近世の売買春と性愛についての論稿をまとめた一冊。本書の課題を著者は次のようにまとめている。  1 近世社会における売買春の実態を、売買春を成り立たせているさまざまな歴史的条件を含めて明らかにすること。  2 近世の売春観ー当該時期の国家や人々の倫理的判断・倫理的対応がどのようなものであったのか―を可能な限り明らかにすること。 として、特に近世の娼婦を一括りにして平板に扱うのではなく、実態に即して構造的に把握することを目指すとしている。    以下、第2章では、隠売女と呼ばれた私娼について、摘発に伴う裁判記録等からその実態をうかがっていく。奉公契約の形式を取って雇われる場合が多いこと、逃亡防止のために監視・拘束下にあったこと、健康破壊により平均寿命が短かったことなど。  第3章では、熊野比丘尼が取り上げられる。中世の熊野比丘尼は絵解きと牛王宝印の配布という勧進を行う巫女だったが、近世に入ると絵解きから歌へ変化し、また歌の宗教性が失われ俗化するとともに売色が行われるようになったという。そのような変化はどうして起こったのか?そこには幕府による宗教統制の影響があったとされる。この辺りの著者の考察は非常に面白い。  第4章では、遊芸を売る女性「芸者」について、丹後の宮津における実態が現地に残された史料によって検討される。そもそも芸者・芸子との呼称が全国的ではなかったらしいが、宮津では、廓内に酌取女と茶汲女の別があった。判明する限りでの年齢や出身地からして、おそらく酌取女は遊芸を身に着けた芸者の側面が強く、茶汲女は売女の側面が強かっただろうとされる。見番や置屋仲間の実態が一部ではあるものの史料から窺われるのは歴史の面白さである。    第5章の近世の梅毒観として、当時の医書等から梅毒についての医学的所見や実際の治療方法について、第6章では、井原西鶴の『好色五人女』を素材にして、近世における恋愛や情愛に基づく性について考察がなされる。  江戸時代の売買春というと、吉原や島原といった遊郭の世界が中心で、あとは夜鷹のような私娼がいるというくらいのイメージしか持っていなかったが、この時代における実態を学んで、女性の置かれた状況やその悲惨な実態をより具体的に知ることができた。

Posted byブクログ