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黒蝶貝のピアス の商品レビュー

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17件のお客様レビュー

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2023/12/31

ストーリーの端々が、主人公たちの言葉の端々が、心に響くお話だった。コロコロと変わる語り手たちのおかげで、全く退屈することなく読み終えた。自分が見えている世界はとても狭いもので、自分勝手に見ているんだなと、自らが持つ偏見を感じた。コロナも夫婦の姓の問題も推し活も、今を代表する話題だ...

ストーリーの端々が、主人公たちの言葉の端々が、心に響くお話だった。コロコロと変わる語り手たちのおかげで、全く退屈することなく読み終えた。自分が見えている世界はとても狭いもので、自分勝手に見ているんだなと、自らが持つ偏見を感じた。コロナも夫婦の姓の問題も推し活も、今を代表する話題だが、とても生活に馴染んだ形で登場して、どこまでも自然で、だからこそ彼女らを襲う問題に向き合う感じがしてとても苦しかった。でも運命の出会いってあるよね、それが苦しいことも多い人生を救ってくれるよね。わたしも出会いや縁を大事にしたい。最初は疎ましく思っていた環の存在を大切にする菜里子さんの存在がとっても自然で、よくよく気持ちがわかって、共感の嵐だった。 p.116 お節介な子だった。人と人とをつなぐのが自分の使命だとでも思っているようだった。 p.130 テレビに出る仕事と言うのは、用意された台本に則り、自分の感情を殺して動かなければならない。ときには、無知なふりをし、不条理を受け止め、平気な顔をして振る舞わなければならない。お金をもらうとは言え、なんて酷なんだろう。人の心が殺されていくの鑑賞するので、なんてグロテスクな娯楽なんだろう。 p.136 私、最近、順子の感情のゴミ箱にされているような気がする。そんな自分の気持ちに気づいて菜里子はぞっとする。 p.157 「分かり合うっていうのは、相手との距離をゼロにするためじゃなくて、適切な距離を探すために必要なんじゃないかな。うまく言えないけど」 p.158 その迷いのない瞳がとらえる世界に、どうかずっといられますように。そのために、ぶれない軸を持った人間になれますように。チョコレートを花咲に差し出してくるような風に吹かれながら、環は小さく祈った。 p.238 「たとえ悪意ある振る舞いじゃなくても、自分の負担になることってあると思います。本当に自分を大切にしてくれる人っていうのは、自分との距離感を大切にしてくれる人のはずですから」 p.244 「料理の数だけ、料理の作った人と間接的に出会っているわけだしね。感謝の気持ちで取る人もいるんじゃない。きれいなものとかうまそうなものを写真でコレクションするっていうのもさぁ、文化の発達によって生まれた1つの趣味なんだから、意味なんかなくていいんだよ」 p.250 たった1人で吸うこと。満たされすぎているときは吸わないこと。吸う時は3本まで。そんなルールを自分に貸していた。誰も知らない小さな儀式のように。 p.316 物心ついた頃から、どんなことだって無邪気に量子に話してきた。よく遊ぶ友達の名前も、嫌いな先生の話も、初め、ての恋人のことも円なんだって笑顔で受け止めてくれていた。2人の中に、それらが記憶となって蓄積される事はほとんどなかったのだろう。見えていた世界の色が、反転していく。 かわいいと褒め、そやし、何でも自由にやらせてくれる。優しい両親。でも気づいてしまった。彼らは愛情部会というより、繊細さの欠落した鈍い人たちであると言うことに。何でも好きにやらせてくれる事は、無関心の裏返しでもあることに。表面的な愛情は注いでくれるが、娘に対する深い理解や興味があるわけではないことに。 p.325 「あのね。亨輔が言ってるみたいに、わかりあうって距離をゼロにするためじゃないと思うの。あの家はやっぱりお父さんとお母さんの家だし、お父さんともお母さんとも、わかり合うために離れたほうがいいような気がするの。じゃないと、私、いつまでも甘えた子供のままだし、勝手にいろんな期待しちゃうから」「でもね、亨輔との距離はやっぱり0がいいの」ずっとあったため続けていた言葉をようやく喉から解き放った。 p.357 そうだった。あの人、心にもないことを言わない人だった。気づけば、手汗でふやけてしまいそうなほど、婚姻届の両端を強く握り締めている。どうして自分はいつまでたっても弱い人間なのだろう。パソコンのOSをアップデートするように簡単手軽に強くはなれない。せめて、弱いまま強くなりたい。大切にしてくれる人を思いっきり大切にできる程度には。

Posted byブクログ

2023/06/05

『アパートたまゆら』『炭酸水と犬』 2021年に同日発売された二作で心を鷲掴みにされた砂村かいりさんの最新作。 本作もとても良かった。 舞台は小さなデザイン会社。 求人に応募した環は、その場所でかつて推していたアイドルユニットの菜里子と再会を果たす。 恋愛要素も織り込みなが...

『アパートたまゆら』『炭酸水と犬』 2021年に同日発売された二作で心を鷲掴みにされた砂村かいりさんの最新作。 本作もとても良かった。 舞台は小さなデザイン会社。 求人に応募した環は、その場所でかつて推していたアイドルユニットの菜里子と再会を果たす。 恋愛要素も織り込みながら主軸となるのは環と菜里子。 親や友人との関係性や性的搾取、仕事、恋愛等で揺れ動く感情が丁寧に掬い取られ、瑞々しい筆致で紡がれる。 自分が過去に経験した記憶が思い起こされ共感を覚える。 互いに支えあい試練を乗り越え絆が深まっていく二人の姿が眩しかった。

Posted byブクログ

2023/05/16

過去作と比べ、 深みが増した気がした。 (誰がどの立場で言ってるんだ、 という言葉だけど。) すごく良かった〜◎

Posted byブクログ

2023/05/06
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

同作者が過去に出版した2冊では恋愛を中心とした物語が描写されていたが、今作も恋愛は絡んでいるものの、今までとはやや変わった新しい視点の物語だった。 恋愛至上主義が代表となっていた平成までとは打って代わり、恋愛が数ある娯楽や体験の1つとして捉えられつつあるこの令和における女性たちの心情を、とてもリアルに捉えて描いている作品だと感じた。 作中にある「これ以上この男に費やす時間が惜しい」というふうな表現についても思わずその通りだ!と頷ける、読者を引きこむ魅力に溢れていた。

Posted byブクログ

2023/04/21

アイドルになりたかった環とかつてのアイドル菜里子。 二人が(偶然というより必然的に)出会い、少しずつ互いの過去や内に秘めたものを吐き出して、亀の歩みで距離を縮めていく。 まるで映像を見ているような感覚でページをめくり、会ったこともないけれど登場人物の誰もが生身の人間として感じら...

アイドルになりたかった環とかつてのアイドル菜里子。 二人が(偶然というより必然的に)出会い、少しずつ互いの過去や内に秘めたものを吐き出して、亀の歩みで距離を縮めていく。 まるで映像を見ているような感覚でページをめくり、会ったこともないけれど登場人物の誰もが生身の人間として感じられた。 結婚してるとかしてないとか、子供がいるとかいないとか、結婚して改姓するのがどっちだろうと、そんなことは些細なことだ、といつかそんな風に誰もが感じる世界になればいい。 立場もステイタスも全然違うふたりでも、心を通わせて家族よりも近くにいてほしいと思えることだってあるし、家族だといって近くにいなければいけないわけでもない。 どんな人生があってもいい。 どんな容姿でどう生きてもいい。 あたりまえのことなのに、それがままならない世の中で小さな希望のような一冊でした。 ちなみに男性陣がわりとクソでわたしは昂って昂ってしかたなかったです(クソ男を見かけると楽しくて仕方ない性癖) そしてわたしは亜衣ちゃん嫌いになれないなぁ。やったことは悪いけど、なんかこう憎めなくて人間ってこういうとこあるよなというのがとてもリアルだった。どのキャラクタよりも血肉が通った人間ぽくてわたしはわりと好きです。

Posted byブクログ

2023/04/21
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

ーアイドルになりたかった ーアイドルになったけれど 20代、ちょっと世間知らずの環は就活の末にフリーイラストレーター・NARIの小さな事務所で働くことになる。以前のセクハラにあった職場とは違うこじんまりとしているけどオシャレなオフィス、てきぱきと働く優しい先輩、そしてなんといってもNARIは環の憧れのあの人かもしれないー。 冒頭は22時台のドラマのようなふわふわっとした感じ、だんだんとそれぞれの人生の隠していた感情や気づいてしまったことがぽろぽろと露になる。 結婚があくまで人生の過程の1つの出来事として描かれているのが印象的でした。 良い成長物語、シスターフッドでした。面白かったです。22時台のドラマのようだと書きましたが映像化に向いてそうな作品。働く女子の心を掴めそうです。 #黒蝶貝のピアス #NetGalleyJP

Posted byブクログ

2023/04/06

元アイドルで現在はデザイン会社の社長である菜里子と、アイドル時代の菜里子に憧れて芸能界を目指していたが挫折した環。 環が就職したのは、菜里子の会社だった。 時を経て二人を結びつけたのは、いかにも運命的だが、実のところは環が菜里子に対して強い憧れの気持ちを持ち続け、近づきたいと願っ...

元アイドルで現在はデザイン会社の社長である菜里子と、アイドル時代の菜里子に憧れて芸能界を目指していたが挫折した環。 環が就職したのは、菜里子の会社だった。 時を経て二人を結びつけたのは、いかにも運命的だが、実のところは環が菜里子に対して強い憧れの気持ちを持ち続け、近づきたいと願った結果である。 環が菜里子を慕うという一方通行だった関係が、様々な出来事(楽しいこともあり、辛いこともあり)を経て、双方向の信頼関係に変わっていく様は、読んでいて胸が熱くなる。 戦うべき相手が完全な悪ではなく、でも立ち向かわなければならない。そんな感情を振り切れない時も、1人より2人の方が心強い。お互いを必要とし、気遣いあって、距離を縮めていく2人の関係が、とても尊く愛おしい。 「2人なら大丈夫」 そう思える彼女たち一人ひとりの強さとひたむきさに、希望をもらった。

Posted byブクログ