ノヴァ・ヘラス ギリシャSF傑作選 の商品レビュー
https://opac.lib.hiroshima-u.ac.jp/webopac/BB04030742
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11名の作家によるギリシャを舞台にしたSF短編小説アンソロジー。 めちゃめちゃ良い本だと思った。馴染みの無い地名や人名の感じに慣れるのに少し苦戦したが、そこを越えるととても豊かな物語が広がっていた。 ギリシャ、ひいては世界が抱える社会問題を含んだディストピアやポストアポカリプスな...
11名の作家によるギリシャを舞台にしたSF短編小説アンソロジー。 めちゃめちゃ良い本だと思った。馴染みの無い地名や人名の感じに慣れるのに少し苦戦したが、そこを越えるととても豊かな物語が広がっていた。 ギリシャ、ひいては世界が抱える社会問題を含んだディストピアやポストアポカリプスな話がほとんどだが、そんな世界を絶望しながらも強かに生きていく登場人物たちに胸打たれる。作家ごとに異なるSF的要素も魅力だが、そこに乗ってくる様々な感情に揺さぶられる感じがした。 ギリシャは「SF発祥の地」と言える国だが、ジャンルが花開いたのは2000年代に入ってからだそう。そんな中で11名の作家陣が見つめた、ギリシャという国と描き出した未来の物語には、ギリシャ文芸の歴史と力がギュッと込められているのを感じた。 マイナージャンルで装丁も凝っているので文庫本として値段はまあまあ高いが、それを差し引いても一読の価値があると思う。
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訳者の要請により書かれたという「はじめに」がまず興味深い。フィクションといえばながらく社会問題が主なテーマで、空想的な物語は童話や民話にしかほとんど見られなかったというのだ。かのギリシャ神話の生まれた国で。しかし政治の変化や雑誌の創刊などをきっかけに作り手の山と読み手の裾野が広が...
訳者の要請により書かれたという「はじめに」がまず興味深い。フィクションといえばながらく社会問題が主なテーマで、空想的な物語は童話や民話にしかほとんど見られなかったというのだ。かのギリシャ神話の生まれた国で。しかし政治の変化や雑誌の創刊などをきっかけに作り手の山と読み手の裾野が広がってきたらしい。 11編の中に宇宙ものは登場せず、ギリシャの大地あるいは海の中が舞台。海面上昇からの水没というシナリオは、ギリシャの人々にとって"すぐそこにある危機"なのかもしれない。 水没した建造物から生活の糧を得る、人種や貧富の差を内包した話『ローズウィード』(ヴァッソ・フリストウ)。 バーチャルとリアルの街を自在に行き来できる世界でデートを重ねてきたカップルが、お互いの間にある齟齬に気づく『バグダッド・スクエア』(ミカリス・マノリオス)。 夏になると観光客を出迎える"人造人間"マノリのうつくしく哀しい感情が印象的な『われらが仕える者』(エヴゲニア・トリアンダフィル) このあたりが良かった。 『バグダッド・スクエア』は、文化や人種の違いをみとめあう方策として"バーチャル都市のカップリング"を創作していて面白い。アテネとバグダッドが隣り合うように接続され、未知の場所に既知の顔をつくろうとする。 「接続によってその見知らぬ他者に顔がつく。子どものいる女性になる」 戦争で殺された誰かには必ず家族がいる、ということをこのように体験できるなら、もう少し世界はましなものになるかもしれないのに。
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現代ギリシャSFアンソロジー。 ギリシャ語(原著)⇒英語版⇒日本語版という 重訳が主だが、アンソロジーの編者両名はイタリア人。 それはともかく、現実が想像力に追いついてきた感。 収録作は―― ヴァッソ・フリストウ「ローズウィード」 コスタス・ハリトス「社会工学」 イオナ・ブラゾ...
現代ギリシャSFアンソロジー。 ギリシャ語(原著)⇒英語版⇒日本語版という 重訳が主だが、アンソロジーの編者両名はイタリア人。 それはともかく、現実が想像力に追いついてきた感。 収録作は―― ヴァッソ・フリストウ「ローズウィード」 コスタス・ハリトス「社会工学」 イオナ・ブラゾプル「人間都市アテネ」 ミカリス・マノリオス「バグダッド・スクエア」 イアニス・パパドプルス& スタマティス・スタマティス・スタマトプロス「蜜蜂の問題」 ケリー・セオドラコプル「T2」 エヴゲニア・トリアンダフィル「われらが仕える者」 リナ・テオドル「アバコス」 ディミトラ・ニコライドウ「いにしえの疾病(やまい)」 ナタリア・テオドリドゥ「アンドロイド娼婦は涙を流せない」 スタマティス・スタマトプロス「わたしを規定する色」 アイディア(≒ガジェット)が先走り、 人の心の問題が後からついていこうとして追いつけない ……といった印象を強く受けた。 しかし、そんな中で エヴゲニア・トリアンダフィル「われらが仕える者」は 素晴らしい! 夏に多くの観光客を迎えるサント島の秘密、 その中心に身を置く ヘリオトロープホテルのフロントマンであるマノリと、 年に一度リピート宿泊に訪れるアミーリアの友情、 信頼関係が美しい。 細かい話は後でブログに。 https://fukagawa-natsumi.hatenablog.com/
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・フランチェスカ・T・バルビニ&フランチェスコ・ヴァルソ「ギリシャ SF傑作選 ノヴァ・ヘラス」(竹書房文庫)を読んだ。中村融による「訳者(代表)あとがき」 にかうある。「ギリシャSFと聞いて、驚かれた方も多いだろう。ギリシャにもSFがあったのか、と。じつは筆者もそのくちだった。...
・フランチェスカ・T・バルビニ&フランチェスコ・ヴァルソ「ギリシャ SF傑作選 ノヴァ・ヘラス」(竹書房文庫)を読んだ。中村融による「訳者(代表)あとがき」 にかうある。「ギリシャSFと聞いて、驚かれた方も多いだろう。ギリシャにもSFがあったのか、と。じつは筆者もそのくちだった。」(267頁、「く ち」に傍点あり。)これがギリシャSFの状況を如実に表してゐるらしい。ほとんど誰もが知らないのである、ギリシャにもSFがあることを。本書自体が 英語からの重訳である。本書の序文「はじめに」にギリシャSFの歴史が書かれてゐるが、 これが日本語版のための書き下ろしであるらしい。これが英語版にも付されるやうになつたのは、英語版を読む人にとつても事情は同じだからであらう。知らないのである、ギリシャSF。実際問題、ギリシャで SFが盛んになるのは21世紀に入る頃かららしく、それ以前もごく散発的には書かれてゐたらしい。せいぜい20年くらゐの歴史しかないと言へさうである。ギリシャの国内事情があるにせよ、これは極めて珍しい事態である。言はばギリシャSF の出発点にほとんど世界中が立つてゐるのである。本書に表題作はない。「ノヴァ・ヘラス」は「はじめに」の最後で触れてあるのみ、ヴァッソ・フリスト ウ「ローズウィード」を巻頭に 計11編収録である。私の知る作家はもちろんゐない。すべて初めて読む作品と作家ばかりで ある。 ・ディミトラ・ニコライドウ 「はじめに」にかうある。「『α2525』が書かれた時期の厳しい経済情勢とギリシャ の激動の歴史を考えれば、著者の大半がディストピア的未来を夢想し、過酷な時代の到来を描いたのは不思議なことではない。」(11頁)「訳者(代表)あとがき」には「ギリシャの現状が色濃く反映されている。その意味ではディストピア SF集といえる」(270頁) とある。つまり、本書は誰が読んでもユートピアは描かれてゐない。描かれるのはディストピ アである。それでも「作家たちが語りに工夫をこらしているの で、陰々滅々とした話がつづいても意外に飽きずに読める。」(同前)とある。これが救ひではあらう。イアニス・パパドプルス&スタマティス・スタマトプルス「蜜蜂の問題」は「生きている蜜蜂の存在する場所」(100頁)は博物館だけとな り、ドローンがその代はりとなつてゐる頃の物語、主人公はその壊れたドローンを買ひ集めて 修理してゐる。ある日、本物の蜜蜂が存在すると知り……当 然、主人公は蜜蜂を見つけようとする。さうして「火事だ!」 「アクラムとクリスティナは死んだ。」(114頁)目的達成である。問題はこの後、「今日の議題はまったくの別件です」「この子はアクラムの娘、アシルです」(116頁)主人公は己が罰を覚悟する……普通はさうなりさうなものである。ところがさうならない。ある種のブラックユーモアのやうにも思へるし、私達の普通の思考ができない時代だからかもしれないとも思ふ。しかし、これが「ディストピア的未来を夢想し」てゐるものなのであらう。先に出た ニコライドウ、その「いにしえの疾病」には「やまい」のルビ がつく。そのやまひは漏失症といふ。要するに年を取つて衰弱死する疾病である。70や80は短命、人は300年以上生きるらしい。「病み衰えていくのはごめんだ」と言ふ医師、場所は山の中、そんな時代とやまひに抵抗する人達がゐた。これはこれで桃源郷の物語かもしれない。短編だからか、それ以上にギリシャといふ国と時代だからか、「1984」とはずいぶん違ふ。「華氏451度」の焚書が好ましくさへ思はれる短編集、これがギリシャのSFかと思ふ。
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ギリシアのSFアンソロジー。11のディストピア。なんだけど、登場人物にたくましさ(それは諦めからくるものなのかもしれないけれど)があって良い。絶望はそれほど感じないかな。 『ローズウィード』は情景が美しい。『バクダッド・スクエア』は近い未来に似たようなことが起こりうる気がする身...
ギリシアのSFアンソロジー。11のディストピア。なんだけど、登場人物にたくましさ(それは諦めからくるものなのかもしれないけれど)があって良い。絶望はそれほど感じないかな。 『ローズウィード』は情景が美しい。『バクダッド・スクエア』は近い未来に似たようなことが起こりうる気がする身近さ。 どの話も面白かったけれど、『われらが仕える者』が一番好きだな。夏の観光客で溢れる島で、夏のために存在する人造人間マノリ。衰退していく夏だけの観光地の島の情景が美しく、そして人ではない、けれど人よりも人らしいマノリの悲哀が切なく美しい。
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ギリシアのSFと言われても、全く想像できない感じだが、ぱっと見は英米のSFと変わらない。序文によると出発点はアメリカSFの輸入だったそうなので、当然だろうか。ただ、アイデアの使い方なんかを見ると、むしろ日本SFに似たテイストを感じる。あくまでも感じだけれど。反面、これもあと序文に...
ギリシアのSFと言われても、全く想像できない感じだが、ぱっと見は英米のSFと変わらない。序文によると出発点はアメリカSFの輸入だったそうなので、当然だろうか。ただ、アイデアの使い方なんかを見ると、むしろ日本SFに似たテイストを感じる。あくまでも感じだけれど。反面、これもあと序文にあるようにディストピア的な世界観に対して、登場人物のへこたれない感じがすごい。元から社会や政府に対して、ろくに期待してないんだろうなあなどと決めつけてしまっては、ギリシアの人に失礼かも知れないが。
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