川端康成 孤独を駆ける の商品レビュー
言わずと知れた文豪の軌跡。 映画化・ドラマ化しやすい、美しい作品が多いことが川端文学が世に知られるきっかけとなった。 ノーベル文学賞を取るための執念みたいなものも掘り下げて欲しかった。
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先月読んだ「東京の美しいドボク鑑賞術」という本の前書きに川端康成の「新東京名所」や「新東京散景」からの抜き書きがあって、彼の都市を見つめる視点がクールでカッコ良かったのにびっくりしました。ノーベル文学賞を取って「美しい日本の私」とかを語る文豪イメージだけじゃなくて,横光利一と新感...
先月読んだ「東京の美しいドボク鑑賞術」という本の前書きに川端康成の「新東京名所」や「新東京散景」からの抜き書きがあって、彼の都市を見つめる視点がクールでカッコ良かったのにびっくりしました。ノーベル文学賞を取って「美しい日本の私」とかを語る文豪イメージだけじゃなくて,横光利一と新感覚派という新しい文体で登場して来た、新しい作家でもあったんだな、と改めて気づいたタイミングでの本書。副題の「孤独を駆ける」に惹かれました。これがまた素晴らしい論理展開で一気読み。文学論ではなく、近現代史、社会論、メディア論、言語論でこの孤高の作家を捉える作家論でした。地方の出身で、尋常小学校で東京の山の手の言葉を基準とする「標準語」学んだ第一世代(P239 )という見立てが新鮮です。読む言葉と聞く言葉のシームレス感、翻訳文学の文章と自らに作る文章との創発、新聞、雑誌、映画,テレビなどのマスメディアとの統合クリエーション、文芸評論と作家活動の相乗から生まれる若手育成…この作家を見る解像度がめちゃくちゃ上がりました。「伊豆の踊り子」の教科書に載るような大作家、三島由紀夫戸との微妙な関係、女性の嗜好、ぽつりぽつりと今でも浮かび上がる点が線になり、立体になった気がします。本文では触れられていませんが巻末の「川端康成著作目録」がことのほか面白く(値段が記載されている!)装丁を手がけた美術家が、中原淳一、芹沢銈介、三岸節子、小林古径、小倉遊亀、東山魁夷、杉山寧、東郷青児、橋本明治、加山又造、という巨匠列伝に驚きました。彼が所蔵していた美術品だけではなく、美術品としての本から見える川端康成論も知りたくなりました。この作者の「横光利一と近代メディア」も読まねば。
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小谷野敦「川端康成伝 - 双面の人」、小谷野敦・深澤晴美「川端康成詳細年譜」には手を伸ばしづらいなぁと感じていたところ、タイミングよく岩波新書から刊行された本書。 スタンダードな評伝では決してない。 が、まさに私が川端康成を読む中で気になっていたメディア論と、評伝とを折衷したようなものだったので、凄く刺激を受けた。 孤独な川端にとってメディア(日記、手紙、小説)が重要だったという作家論としても意義があるし、川端を読むのならメディアの進化・多様化(映画、ドラマ)も一緒に把握したほうが文化論にも視点を当てることができてお得、ということもある。 長生きし発信を続けた人の全体を把握するときの旨味。 以下目次 第1章 原体験としての喪失―出生から上京まで (天涯孤独の感覚と他者とのつながり;川端康成の日本語観 ほか) 第2章 モダン都市とメディアを舞台に―「伊豆の踊子」と「浅草紅団」 (新感覚派の旗手として;一九二六年、映画との遭遇 ほか) 第3章 戦中・戦後の陰翳―書き続けられる「雪国」 (文芸復興期前後の活躍;言論統制と「雪国」 ほか) 第4章 占領と戦後のメディアの中で (知友たちの死と鎌倉文庫;GHQ/SCAP検閲下における創作と出版 ほか) 第5章 世界のカワバタ―「古都」から「美しい日本の私」へ (文学振興への献身;翻訳と「日本」の発信 ほか)
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