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創世のタイガ(講談社版)(11) の商品レビュー

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2023/07/31

(粗筋は書かないが、11巻までの重要なネタバレがあります) 6巻まで読んでいたが、今年第一部完結という報を受けて借り受け、一気に11巻まで読み通した。第一部として一応区切りはつけているけれども、実際はまさかの連載媒体紙「イブニング」休刊→出版社変更(白泉社)が起きていたための完...

(粗筋は書かないが、11巻までの重要なネタバレがあります) 6巻まで読んでいたが、今年第一部完結という報を受けて借り受け、一気に11巻まで読み通した。第一部として一応区切りはつけているけれども、実際はまさかの連載媒体紙「イブニング」休刊→出版社変更(白泉社)が起きていたための完結である。ストーリー自体は、これから正に佳境に入ろうかという段階だろう。 現代の若者7人が、人類学ゼミ旅行の途中2万5千年前(?)、ネアンデルタール人とホモ・サピエンスが同時に存在している場所と時代にタイムスリップしてしまう。「早く未来に帰りたい」「俺たちがこの時代に飛んできたのは、何か理由があるのではないか」メンバーに様々な思惑が浮かぶが、人類学専攻の彼らには何よりも知識という武器があった。そして次第に戦士としての自覚を高めていく主人公タイガ。若者たちは次第に闘いの戦術、狼のペット化、マンモスとの友好関係、武器の制作‥‥と、「歴史を変える」ことまでやってしまう。 私は前回のレビューで、このマンガの世界観について以下のように「違和感」を書いた。 曰く。 ネアンデルタール人とホモサピエンスは当然のように「組織的に」殺し合っている。これには私は、とっても違和感がある(cf.『絶滅の人類史』を読めばその根拠を書いている)。このように描くのは、「戦争」がないと歴史が進まないと勘違いしている現代人の悪弊だと思う。何しろ彼らが殺しあう動機をこの作品は一切語っていないのである。 7巻目から、やっとネアンデルタール人たちの意図が判明する。彼らは同じくタイムスリップしてきた「ナチス軍人たち」によって組織されていたのである。ナチス軍人は第二世代に入り「王」として君臨していた。氷河期を迎えて南の国へ侵略し、「イロツキ」一族を殲滅し「シロキモノ」の国を作ろうとしていたのである。一方、ホモサピエンスの「ムラ」の頂点にはシャーマンがいるだけだ。王の出現、殲滅という方針に対して、シャーマンは「北の者とは争うことはあっても、お互いを滅ぼそうとは思わなかった。これは今までにないことじゃ」と方針を出すことができない。ホモサピエンスにも、新しいリーダー(王)が必要とされる。 つまり、作者は、ナチスの民族蔑視思想を梃子にして、本来なら農耕を経ないと生まれない戦争と王の出現を約1.5万年(?)ほど飛び越えて出現させたのである。作者の本当の意図はこれからハッキリするとは思うが、私には1万年ほどかけて暫時作られてきた人類史の戦争思想を、マンガらしくあっという間に描こうとしているように思えた。 タイガは望まれて戦士になったわけではない。たまたまボクシングをやっていた時の闘いの技術と、後半は圧倒的な鉄の武器を手にいれ、さらにはこの時代にはありえない狼と象の助けを借りて、人数と戦術に勝るネアンデルタール人の猛攻に、個人としての奇跡を起こしてきたに過ぎないのである。そして仲間を助けるために仕方なく殺してきた相手だったが、次第と組織的に敵基地攻撃で大量殺戮も行うようになる。タイガはPTSらしきものを患うようになる。この描写も作者の意図だろう。 だとすれば、戦士としての位置に無理矢理自分を閉じ込めようとしていたタイガが、リーダーの「死」によって、ホモサピエンスの「王」に祭り上げられそうになる第二部においては、どのような決着になるのか?果たしてこのまま歴史の改変が進んだままでいいのか?ラストまではそう長くはないと、思える。注目していきたい。 森恒二氏は、「自殺島」「無法島」等で、極限状態の中での「殺人」をテーマに描いてきた。と思う(←読んでない)。そこから必然的に導かれた今回のテーマなのだろう。現代の若者が、「人類」の「殺人」をどう描くのか?私は興味がある。

Posted byブクログ