挿絵の女 の商品レビュー
単行本未収録作品集ということだが、バラエティの豊かさに驚いた。有吉佐和子さんを元々よく知らなかったとはいえ、前作と同じノリで展開しないというか、毎回良い意味で期待を裏切られるドキドキ感があった。 ただどの作品でも一貫して感じたのは、不自由を被る弱者を見逃さない目配り。それが前...
単行本未収録作品集ということだが、バラエティの豊かさに驚いた。有吉佐和子さんを元々よく知らなかったとはいえ、前作と同じノリで展開しないというか、毎回良い意味で期待を裏切られるドキドキ感があった。 ただどの作品でも一貫して感じたのは、不自由を被る弱者を見逃さない目配り。それが前景に出るか背景に収まるかは色々だが、ユーモア満載の作品でもそこは外さない。 ■挿絵の女 出版業界で生きる男二人と女一人の(おそらく書かれた当時の)現代劇。主人公格の男性の、「無駄な喧嘩はしないが自分の大事な人に害を為すものははっきりしっかり遠ざける」という、最後の態度が私はとても好きだった。これを良しとする作家の作品なら楽しめそうだとワクワクした一作目。 ■指輪 作者自身が登場。自虐を交えた面白顛末記でも始まりそうな楽しげな冒頭から一転、悲痛な事件、捜査。なんという暴力。 ■死んだ家 舞台は都会から一気に田舎へ。祖母の危篤に、亡き祖父から勘当された母の代わりに二十四才の孫娘紀美子が見舞いに行く。解説によると代表作『紀ノ川』との類似点が多いとのこと。 ■崔敏殻 今度は閻魔大王が出てきたぞ。主人公は中国人のようだ。これは有吉作品にいくつかあるという中国古典を題材にしたもののひとつだとのこと。しかしこの溢れるユーモアはなんだ。こういうのも書けちゃうのかと、短編集の多彩さに目眩を感じつつ、ブク友さんたちのレビューにあった中島敦、浮遊霊ブラジルとの言に深く頷く。 ■秋扇抄 ある芸者の注文を受けて究極の一着を用意する呉服屋。呉服屋は職人ではないが、コーディネーターでありプロデューサーでありこのプロジェクトの成否は彼の手に懸かっているといっても過言ではない。情熱迸らせ仕事に打ち込むシーンは木内昇っぽい(誰かっぽいと言いたい説もある)。昂れば昂るほど結末に向けてハラハラした。一番好きでした。 ■鬼の腕 妖艶な女舞踊家と、息子ほど歳の離れた青年(後に中年)の只ならぬ関係。なにということはないのだが濃厚。 本書はロッキーさん、111108さんのレビューでとても面白そうと思い、読みました(ありがとうございます)。恥ずかしながら、有吉佐和子…はて、阿川佐和子さんとは違うよな…というくらい何も知らなかったのだが、調べてみたら映画(『華岡青洲の妻』)やドラマ(『不信のとき』)や演劇(『ふるあめりかに袖はぬらさじ』)では知っている作品もあった。
Posted by
単行本未収録作品集であり短篇集だ。『指輪』はミステリー作品ともいえる恐ろしさがあった。また、『秋扇抄』では盛りを過ぎた芸妓の哀愁と、作品に賭ける呉服屋の凄まじいまでの情熱が表現されており圧巻。
Posted by
短編は物足りないしプツンと終わり楽しむというよりあらすじみたい。 短編なのにまとめてあるのでこれを読んで有吉佐和子の本を読んでみたいという気持ちになる一冊だとは思う。
Posted by
どうやら今年出たらい単行本未収録作品集。最近なんとなく有吉佐和子さんが再評価されている空気があり、嬉しい! そして本当に一編一編ハズレがないのに脱帽。 日本舞踏の世界を描いた短編『鬼の腕』なんかはさすがお家芸だけど、まさかフィクション風の推理小説『指輪』や、中国古典を題材にしたユ...
どうやら今年出たらい単行本未収録作品集。最近なんとなく有吉佐和子さんが再評価されている空気があり、嬉しい! そして本当に一編一編ハズレがないのに脱帽。 日本舞踏の世界を描いた短編『鬼の腕』なんかはさすがお家芸だけど、まさかフィクション風の推理小説『指輪』や、中国古典を題材にしたユーモラスな『崔敏殻』(中島敦風!)まで書いていて、しかも面白いとは!どれだけ才能があるんだ…。
Posted by
単行本に未収録だった短編を集めたもの。昭和33年から41年までのものとあって、言い回しや背景には時代を感じる。「挿絵の女」は昭和34年発表。このあたりの時代だと戦争の傷跡がまだまだ生生しいんだなあと感じた。またこれが一番よかった。 有吉氏の28歳から35歳時の小説だが、作品は人...
単行本に未収録だった短編を集めたもの。昭和33年から41年までのものとあって、言い回しや背景には時代を感じる。「挿絵の女」は昭和34年発表。このあたりの時代だと戦争の傷跡がまだまだ生生しいんだなあと感じた。またこれが一番よかった。 有吉氏の28歳から35歳時の小説だが、作品は人生の年輪や男女の機微が入っているもので、その年齢でよく書けたなと感嘆する。 「挿絵の女」 出版社勤務の明子。雑誌に連載する小説を担当しているが、新たな連載を小説は新人の増田秀人に。挿絵は無名の小柳良亮吉に頼んだ。この小柳は、戦争のために記憶を喪失した人々の特集記事の時に出会った男で、戦争中セレベス沖で漂っていたのを巡洋艦に救助され、自分が誰だかわからないまま広告会社で働き戦後を過ごしていた。その時小柳の机にあった女性のスケッチ画で挿絵画家として採用したのだった。 増田と小柳コンビの連載は好評を博し二人は有名になってゆき、やがて明子と小柳は結婚するが、明子の心底には小柳の描く挿絵の女がいて・・ 最後は前向きに終わるのがよかった。 「挿絵の女」オール読物1959.7月号(有吉氏28歳) 「指輪」小説新潮1958.7月号(27歳) 「死んだ家」文学界1958.8月号(27歳) 「崔敏殻」小説新潮1963.1月号(32歳) 「秋 扇抄」別冊文藝春秋1966.9月号(35歳) 「鬼の腕」小説新潮1964.5月号(33歳) 有吉佐和子研究者の岡本和宜氏の詳しい解説がある。 2023.330初版 図書館
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
(内容紹介) 記憶を失った挿絵画家が描く女は誰なのか、揺れる心理を描く「挿絵の女」、代表作『紀ノ川』のもととなった「死んだ家」、日本舞踊家の生き様「鬼の腕」等、珠玉の単行本未収録6編。 (収録作) 挿絵の女(1959年7月) 指輪(1958年7月) 死んだ家(1958年5月) 崔敏殼(1963年1月) 秋扇抄(1966年9月) 鬼の腕(1964年5月)
Posted by
- 1