北関東「移民」アンダーグラウンド の商品レビュー

安田峰俊(著者)

2023/05/13

労働力減少という大きな日本の社会問題に対する解決策として政府が主導したいわゆる外国人労働者の技能実習制度はこれまでにも数多の問題点が指摘されてきたところであるが、その結果として雇用先企業から脱走して、不法滞在状態にある外国人労働者の問題がある。

本書は、外国人労働者の出身国として、2020年から中国を抜いて1位に躍り出たベトナム(今や、日本で生活する外国人労働者の1/4にあたる)出身の不法滞在者、彼らは”兵士”を意味する”ボドイ”と呼ばれているが、その”ボドイ”にスポットライトを当てたルポルタージュが本書である。

著者のアプローチはとにかく生々しい。というのも、技能実習生の多くが雇用されている地方都市に出向き、ボドイが居住していそうなアパートを見つけると、コンビニで買った缶ビールパックを土産に訪問して一座の輪の中に入りこんでしまうのである。元の雇用先がいかにひどかったか、ボドイが起こした事件などのいきさつ、など、リアルな一次情報に溢れている。

テーマ的に明るくない話も多いのだが、不法滞在の状態を巧みにサバイブしていこうとするボドイたちの生活力ある姿は純粋に面白く、それでいて技能実習制度という政策の問題点を巧みに照射している、という点で社会問題を扱うルポルタージュのお手本とも呼べるクオリティの一冊になっていると思う。

2023/04/10

仲介者となる通訳と共にベトナム人の地下社会住民にしっかりインタビューしている。マスメディアでこれが読めないのは何故なんだろう、と考えさせられる

2023/03/28

日本へ「移民」してきてるベトナム人の（あまり社会的に高くない方の人たちの）実態を、突撃取材を含む丹念な取材の元に描いた一冊。

買って一度読んで…もう一度読み返した一冊です。

一回目に読んだときの印象は「そんなもんだろうとは思っていたけど…思ってたよりやばいなぁ」という感じ。正直そこまで驚きのない本だった。

自分の弟がそういうベトナム人労働者の多い地域で第二次産業に従事していて、「ベトナム人の悪い噂」をすでに聞いていたのが大きい。
「草刈り用に放していたヤギを勝手にばらして食ったベトナム人」の話を聞いたのは結構前（確かコロナよりも結構前の話）。
「同じアパートに住んでいたベトナム人が酒を飲んで自分の車の上で飛び跳ねて凹んだ。が、取引先で雇われているベトナム人だし、揉めて報復されてもかなわんし、もう引っ越すし…」と泣き寝入りしたのはたしか一昨年。

本書では取材の元に、ベトナム人が起こした事件をもっと詳しく取材して、その背景も考察してる。とはいえ…ぶっちゃけ想像の範囲内。
それよりも「なんでこんな毒々しい色使いの表紙なの？そして、政治本コーナーはなんで似たような毒々しい表紙の本が多いの？」って方がよほど引っかかったくらいだった。

が…一番意外だったのは、この本の評判がネット上であんまり芳しくないこと。
「万人受けするテーマの本じゃないのは確かだけど…」という意識でもう一度読み直して…「確かに…読んだ後の『希望のなさ』は際だって大きい本だなぁ～」とちょっとだけ納得した。

似たような問題は、いままでだっていろんな「外国人移民」が繰り返しているのです。
ただ…突き詰めると「日本の支払い能力」が下がっていて移民側のがっかり感は大きくなっていること、一方で「移民」がいること前提で食っている人が日本側だけでなく移民側にも増えていること（冒頭のベトナム人アパート突入の際、その派遣会社の経営者が南米系であることを示唆しているのもその一例）。
それらが相まって「こうやったらなんとかなるかも」という希望がどういう風に読んでも読み取れない。農村部の閉塞性も、社会的・能力的なものに起因する実習生の多くの主体性の低さも、それ前提で動いてしまっている日本社会も、それが変えられるくらいなら日本はここまで低迷してないだろう、と。

意識の高いベトナム人が日本社会を当てにせず商売を試みている事例や、そんなベトナム人に店を貸しているのが中華系移民の成功者だったりする事例を最後に挙げ、「まあ…時間がたてば、移民の側で解決するでしょう…」という結論も…わかりはするけど釈然とはしない。とにかく読了感がよくない。

「利害には関心があっても、他人や難しい社会構造には興味が薄いベトナム人」と「めんどくさいことは見て見ぬ振りをしたい日本人」の嫌なかみ合わせはもうしばらく続くのかな～、という気持ちになった一冊でした。

2023/01/16

【ベトナム人不法滞在者たちの地下ネットワークへの突撃ルポ！】北関東に地下茎の如く張り巡らされたベトナム人不法滞在者のネットワーク。ラスボス「群馬のアニキ」の正体は？　体当たり潜入ルポ。