お金の流れで見る世界史 の商品レビュー
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高校の世界史で習ったことばかりが出てきていてなじみ深い固有名詞を懐かしくたどりながらも、新しい視点から見たらこんなに違って理解できるのかと、最後までとても興味をもって読み終えました。 著者は、お金の流れから歴史を見ることで、国家の興亡を紐解く視点を得られると説明しています。 おもしろいです! 小中学校の歴史で学んだら、何のことだかよくわからずに名前だけ憶えていた封建制度。 __一部の裕福な者だけが肥え太っていき、市民の生活はますます破綻していく。これは東西世界で、封建制度の成立過程に見られる現象である。 古代ローマ帝国、モンゴル帝国、オスマン帝国、中国の徴税や行政の工夫。 イギリス王室に勝手な徴税を禁じたマグナカルタ。事業の組織化に長けているイギリス。イギリス王室と海賊の協力関係。世界初の国債と中央銀行をモデル化したイングランド銀行。 第一次世界大戦から第二次世界大戦に至るドイツの経済的圧迫状況。 アメリカの金本位制と一国の通貨を世界の基軸にする矛盾。 ひとつの行政の仕組みとして、お金の流し方として、そして、国家の盛衰との関連で理解するととても面白いですね。そして国家間のつながりが歴史至上最高に強くなっている今日、それは一国の盛衰ではなく、国際社会全体の盛衰の話でもある…。 このようにお金の流れから世界史をたどることで得た著者の結論は、国を長く栄えさせようと思えば、税金を逃れる「特権階級」をつくらないこと、だといいます。 そして、今日の社会、タックスヘイブンなどにより、世界規模で特権階級が生じていることを指摘し、これは世界規模で「国家崩壊」が近づいているのかもしれない、と警鐘を鳴らしています。 今まさに気候変動の国際会議(COP29 )が開催されていますが、地球の気温上昇と気候危機が日本でも現実になっている中で、アメリカをはじめとする先進国の株価は高騰し、新型コロナの後に史上最高額を更新。現在も高い水準で推移していることも、2023年初旬の文庫版の出版にあたり指摘されています。 ___これは何を意味しているのか? 世界中の人々が、目先の利益の収奪だけを計るようになったということである。全体のこと、将来のことは考えず、ただただ自分が利益を得ることだけに邁進する。その結果が現在の世界の状態となって表れているのだ。 これまでの世界の歴史を見れば、「経済に一人勝ち」というのはあり得ない。それは個人においても、国家においても同様である。 同じことでも、異なる視点で見ること。そうやって歴史をたどり、学ぶことで、自分の生きる今の世界最寄り深みをもって考えることができると思いました。
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古代エジプトからリーマンショックまでの世界史のお金の流れを解説していて、インフレまたは徴税がうまく機能しない場合に国家が崩壊しているのは興味深いなと思いました。 とくに金本位制になると通貨発行益が不足し、貿易黒字で米国に金が流入してもインフレを懸念して通貨量を増やせなかったという...
古代エジプトからリーマンショックまでの世界史のお金の流れを解説していて、インフレまたは徴税がうまく機能しない場合に国家が崩壊しているのは興味深いなと思いました。 とくに金本位制になると通貨発行益が不足し、貿易黒字で米国に金が流入してもインフレを懸念して通貨量を増やせなかったというのも重要な教訓化だと感じました。
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経済の視点で古代ローマ・エジプトからリーマンショックまでの世界史の流れを「ザックリ」と解説している。どの時代においても普遍的なのは徴税がうまく機能しなかったり、インフレで市民の生活が成り立たなったりすると国家は崩壊するという事だ(徴税、物価が崩壊する要因は様々だと思うが)。 金融視点で世界史を眺める際、「ユダヤ人は欠かせない存在である。ユダヤ人は古代イスラエル王国を現在のパレスチナに築いていたが、ソロモンの死後に北イスラエル王国とユダ王国に分裂し弱体化し、北イスラエル王国はアッシリア帝国に、ユダ王国はバビロニア帝国に滅ぼされ、ユダ民族はバビロニアに連れ去れることとなる(バビロン捕囚)。ペルシャ帝国がパレスチナを支配すると帰還を許されることとなる。紀元前後にローマ帝国を後ろ盾にしたヘロデ王が実権を握りヘロデ王国が建国されるが、ヘロデ王の死後ローマとの関係性が悪化した結果ユダヤ戦争が起きユダヤ人は再び流浪の民となる。これ以降、ユダヤ人は国土を持たない民族となり受け入れてくれる国を探して放浪することになるが、ユダヤ教という共通概念を持った仲間が広範囲に散らばっているという側面が金融面での強大なメリットになる。なぜなら、金融は情報が全てであり、世界各地の情報を持っていれば有利に貿易や交渉を進められるからである。分散しているという事は様々な通貨を扱うことになるため、自然と「為替業」も盛んになり、各地での為替事業に対して支配的な立場を築くようになる。ユダヤ人が輩出した近代の金融家の筆頭は「ロスチャイルド家」であろう。始祖マイヤー・アムシェルはドイツで生まれ、王侯貴族を相手に珍品などを売ることで名を売り、次第にヴィルヘルム公の財政運営にも関わるようになる。マイヤーは5人の息子をロンドン、パリ、フランクフルト、ウィーン、ナポリに配してヴィルヘルム公の受け取ったイギリス小切手を両替する事業を上手くこなした。為替市場はないため、当時は世界情勢を見ながら上手に判断することが利益につながったのである。ロスチャイルド家が急激にライジングするのはナポレオン戦争の時である。ドイツはフランスの占領下に置かれたため、ヴィルヘルム公の資産はロスチャイルドが管理することになった。この時、まだイギリスはフランスの支配下になかったため、資産をイギリスに移し大量のイギリス公債を購入した。ロスチャイルドはこの公債を元手に証券取引を行い巨額の富を築く。ロスチャイルドはこの時密貿易にも精を出して荒稼ぎを行う。ナポレオンはイギリスを経済封鎖したため、イギリスではヨーロッパ向けの商品がダブついた一方、ヨーロッパでは品不足で物価が高騰した。ロスチャイルドはイギリスの暴落した商品を買い漁りヨーロッパ諸国に売りつけることで荒稼ぎをしたのである(台湾有事が起きた際、アメリカは中国に経済制裁を科す可能性が高いため中国と日本・アメリカで同じような事が起きるのだろうか)。 19世紀の近代においては、覇権国イギリスの影響は避けて通れない。イギリスの植民地政策は現在にも影響を与えており、要因は当時の植民地運営ポリシーにある。イギリスの植民地を効率的に統治するために、民族間・宗教間の対立を煽ることとした。例えばインドにおいては、当時イスラム教とヒンドゥー教が混在していたが、特段対立する要素はなかったが、ムガール帝国の影響を排したいイギリスは公職にヒンドゥー教ばかりを据えて格差を作り出した。これによりイスラム教・ヒンドゥー教の対立が生じ、ガンディーの独立運動においても禍根を残し、ヒンドゥー教の地域をインド、イスラム教の地域をパキスタンとせざるを得なくなった。アメリカへの影響も面白い。当時、北米を植民地としていたイギリスだが、駐屯軍を派遣する等お金がかかっていたため、アメリカに課税をしたかったが、イギリス議会にアメリカの代表者がいないことを理由にアメリカは課税を拒否していた。そこでイギリスは東インド会社に関税なしでの紅茶の貿易を許可し、安価な紅茶が大量にアメリカに持ち込まれた。イギリスはこの利益を税金代わりにしようとたのである。これに激怒したのがアメリカの貿易関係者で、港に停泊していた東インド会社の商船に乗り込み積み荷を海に投げ捨てたのである(ボストン茶会事件)。結局これが引き金となり、アメリカ独立戦争が引き起こされるのであった。
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経済の視点で歴史を見るとこうも解釈が変わるのかと驚いた一冊。 未来を見通す上でも非常に有効な知恵が詰まっていると思う。 一気に大村氏のファンになった。 これからも著書を追いかけたい。
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