はっぴいえんどの原像 の商品レビュー
永遠の名曲、パール兄弟の「バカヤロウは愛の言葉」に倣って言えば、本書はサエキけんぞう・篠原章の「はっぴいえんどは愛の言葉」、二人の「はっぴいえんど愛」が溢れかえっています。ただしその愛は、はっぴいえんどに心を持っていかれたファンの言葉としてではなく、音楽家と学者というプロフェッシ...
永遠の名曲、パール兄弟の「バカヤロウは愛の言葉」に倣って言えば、本書はサエキけんぞう・篠原章の「はっぴいえんどは愛の言葉」、二人の「はっぴいえんど愛」が溢れかえっています。ただしその愛は、はっぴいえんどに心を持っていかれたファンの言葉としてではなく、音楽家と学者というプロフェッショナルとプロフェッサーというダブルプロとして語られています。最近、はっぴいえんどを日本のロックのはじまりとして語る神話に疑問を投げかける論考にも触れたりしますが、世界的な音楽の流れの中での偶然が必然となった特異点がこのバンドであることは間違いありません。今回、その特異点が生まれる源流として米軍基地の子弟たちの私設放送局「Radio T-e-e-n」がFEN「Teenager On Parade」になっていくというアメリカのポップスの流入経路を明らかにしていること、「中川三郎ディスコティック」を嚆矢とする、いやいや鹿鳴館文化人脈まで遡る「夜遊び文化」を指摘していること、また、その真逆の日本の反体制運動と音楽の関係をつまびらかにしていること、そこにはURCというレーベルや岡林信康というミュージシャンで、はっぴいえんどに直接繋がっていくこと、そんなこんな日本音楽平野を流れる川の支流をいちいち挙げていて、なぜあの時代にはっぴいえんどが生まれたか、を語ろうとしているのが丁寧です。一方、4人が直接影響を受けた人々のリスト、「ゆでめんリスト」の名前をこれまたいちいち解説している章も秀逸で、特にミュージシャンやバンドやアルバムをいまさらにYouTubeで検索して聴きながら読むのは濃厚な読書時間となりました。あの時代、彼らの音楽を作った原材料の音楽に浸ることは1960年代最終の世界音楽潮流を感じる体験でした。そして4人は出会い、まさに、はっぴいえんどはその後に音楽にとっての、はっぴいすたあと(?)地点になって、別れていくのです。やはり、神話か!ユーミンがデビュー50周年を迎え、村井邦彦が日経新聞「私の履歴書」で人生を振り返り、高橋幸弘と坂本龍一が召された、このタイミングでこの本を手にしたのもちょっと偶然?必然?
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