世界を変えた地図(下) の商品レビュー
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さまざまに引っかかりを覚えながらも、最後に印象を覆してくれた。 まずはネガティブに陥る。以下の理由により、星2評価も辞さない構え。 訳語の選択に再三疑問を覚える。 手抜きがひどい。地図という図像を説明する本であるはずなのに図が割愛されている。 「軍用地図」の章 本題に密接に関連するわけではない戦局が文学的に描かれており、意味もなく横道にそれている印象がある。著者が戦争早口オタクだということがよくわかる。戦局を説明したいなら地図と並べて説明する必要があると思われる。なぜなら本書は戦争をテーマにした本ではないので、読者は戦争に詳しくないと考えられる必要があるからだ。『中世のパン』でも同様のことを感じたが、図示を怠り、文章だけ済まそうとするのは人文の怠慢である。 本章の中では「ダンケルク」の節は妥当と思える。測量によって得られた地形情報が戦略に影響を与えたことが記されている。「ダンケルク」「ドーバーの防御作戦」「オマハビーチ」「冷戦の破壊」これらが本章のメイントピックで、他のは水増しと考えるのが妥当かもしれない。 シベリア鉄道に関する書籍は読んだことあり、たいへん面白かった。アメリカの鉄道については全くなにも知らない。アメリカの鉄道黎明期のことを読んでみてもいいかもしれない。アメリカだと列車強盗と聞いて頷けるが、シベリア鉄道ではそういう逸話は語られなかった。実際、どうだったんだろう。 「イスラエルの地図」の章 著者がイギリス人であるため、イスラエルとパレスチナの問題という顔をして書かれている。南アフリカの例をひいてイスラエルを非難する文脈だが、南アフリカで行われた政策についても他人事のように書いている。ブリカスしぐさはたいへん醜い。 p.173 「ヌーメノール」という語は「アトランティス」という語に翻訳できるそうな。 「国家のステレオタイプを嘲笑する」の章 載せてない図を文章で説明して、図の作成者を嘲笑する。 ネガティブな読み味は募るばかりであったが、印象が改まる。トールキンの創造世界で場を和ませた後に。 地図はたびだびプロパガンダに用いられてきた。この本の最後を飾るのは現代中国のプロパガンダである。これを最後に持ってくるのが最高にイギリス人。
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「世界を変えた地図」とは、地図が人の認識を変え、行動を変え、歴史を変えたということ。下巻の副題は「ロンドン地下鉄からトールキンの中つ国めで」。上巻に続き、その地図が出現するまで見えなかったものを可視化する二次元の表現物が次々取り上げられます。メルカトル図法を引き合いに出すまでもな...
「世界を変えた地図」とは、地図が人の認識を変え、行動を変え、歴史を変えたということ。下巻の副題は「ロンドン地下鉄からトールキンの中つ国めで」。上巻に続き、その地図が出現するまで見えなかったものを可視化する二次元の表現物が次々取り上げられます。メルカトル図法を引き合いに出すまでもなく、もともと三次元のものを二次元に落とし込む訳ですから、そこには省略とか解釈とか意図とか作成者の編集が入ることが必然なのであります。なので「世界を変えた地図」は地図の作者が、世界をどう捉えたか?だけではなく、人々にどうとらえさせようととしたか?という欲望の表出でもありました。先住民から強奪の方法として、領土問題の主張として、戦争勝利の武器として、さらにはユートピアを現実のものとする設計図として、下巻では地図の禍々しい要素を強く感じました。ボーア戦争のコレンゾ、第一次世界大戦のティプヴァァル、パッシェンデール、第二次世界大戦のダンケルク、オハマビーチは現在のウクライナでの戦争と地続きですし、ゲッペルスのプロパガンダ地図やイスラエルの建国地図もまさに2023年の問題として現存しているように思います。本書には取り上げられていませんが、日本の大東亜共栄圏の地図も太平洋戦争の燃料だったかもしれません。地図が世界を変えていくように、世界は地図を変えていく。地図は不変じゃないことを知りました。
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