危機の時代と田辺哲学 の商品レビュー
西田幾多郎の最大の批判者であった田辺元の没後60周年を記念しておこなわれたシンポジウムの研究をまとめた本です。 冒頭の座談会は、「田辺哲学の現代的意義―コロナ時代に向けて」というタイトルが付されており、コロナ禍というアクチュアルな問題をにらみつつ、田辺元の哲学の現代的な意義につ...
西田幾多郎の最大の批判者であった田辺元の没後60周年を記念しておこなわれたシンポジウムの研究をまとめた本です。 冒頭の座談会は、「田辺哲学の現代的意義―コロナ時代に向けて」というタイトルが付されており、コロナ禍というアクチュアルな問題をにらみつつ、田辺元の哲学の現代的な意義について論じることがテーマとなっています。とりわけ注目されるのは、上原麻有子によって田辺の思想が「弱者への配慮がない、強者の論理である」と指摘されていることです。田辺は、つねに自己否定を追い求め、みずからの思索そのものに向けて徹底的な反省を向けていくことによって、その思想を変えていったことで知られていますが、こうした強靭な思索の道を歩むことのできる田辺が、そうした力をもたない「弱者」への配慮を欠いていたのではないかという問題提起がなされています。 織田和明の論文「田辺元の倒し方―絶対転換としての絶対無の空虚さをめぐって」も、同様の問題についての考察ということができるのかもしれません。ここでは、みずからの立脚点も含めて、あらゆるものを否定のなかに投げ込む田辺の哲学が、かえって絶対に倒されることのないような設計になっていることを指摘し、テロリズムの論理へと通じる危険性があることが示されています。 そのほか、ギリシア哲学やディルタイ、フッサールなどの西洋の哲学者たちと、田辺哲学とのかかわりについて、それぞれの分野の専門家によって書かれた論文なども収録されています。
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