草を褥に の商品レビュー
わざわざタイトルに「小説」とついており、著者自身は小説を志して執筆したのかもしれないが、どう見ても小説のテイは成していない。何しろ、本文中に「わたし」が出てきたら、それが指しているのは、牧野富太郎と同郷という縁からこの本を書くことになったと思しい大原富枝のことである。評伝、が正し...
わざわざタイトルに「小説」とついており、著者自身は小説を志して執筆したのかもしれないが、どう見ても小説のテイは成していない。何しろ、本文中に「わたし」が出てきたら、それが指しているのは、牧野富太郎と同郷という縁からこの本を書くことになったと思しい大原富枝のことである。評伝、が正しいであろう。 しかし評伝としてもかなり変わった進行で、晩年のエピソードに始まり、続けて最愛の寿衛子との出会いの経緯、その次からは出自である佐川という土地の話や時代背景や著者の家庭の話などが入り混じり混沌とした語り口の中に牧野富太郎の生い立ちも語られていく。かなりのカオスである。 また、文中に手紙文をそのまま掲載していることがままあるのだが、当時の候文がそのまま載っているだけでなかなか読みづらい。明治末生まれの著者にはなんということもなかったのだろうが、ここは現代口語訳も載せてほしかった。 一事が万事その調子でなかなか読むのが辛く難渋したのだが、牧野富太郎が大変な(良い意味でも悪い意味でも)人で、活力と魅力に溢れる人物であったらしいということはよくわかった。ただ私自身はあまり仲良くなれないと思う。 本としては、富太郎や寿衛子の写真が何点かあり、さらに植物図の写真も載っていたのが嬉しかった。あと「草を褥に木の根を枕 花と恋して九十年」という富太郎本人が晩年に好んで使った言葉から取ったというタイトルはゆかしくてよかった。
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本書は、NHK朝ドラ『らんまん』の主人公万太郎のモデルである牧野富太郎の 奥さん2人を中心に書かれている、他の書籍とは違う万太郎の私生活が分かる本。 他に、奥さんの視点で書いているのは、朝井まかて『ボタニカ』があるが、 その著作はこれから読むのが楽しみである。 さて、本書の内容の面白いところは、一人目の奥さんである、猶(おお)さんとの 手紙とか、二人目の奥さん、寿衛子(すえこ)との手紙を交えながら、当時の牧野の家庭の経済状況及び私生活がよく分かる。 かなり細かく言葉が分かりにくい部分もあるが一部二人の手紙を紹介しよう。 猶は従妹妻であり、祖母が強引に結婚を勧めた嫁らしい。 ・先日来毎度電報御こしあそばれしところ、早速まかり出づべき筈に候(そうろう) へども先日申上候通りの病院にて、遠路旅行致すこと甚だ都合悪くし、また代人をやといたくも折柄旧年来にて人も有り難く、その上事情少しも分かり申さず、何卒手紙にて事情くわしく御申越遊ばれたく、・・・・・・ その文面を出しているのは、高知から、東京へ出している。 猶は妹のような関係であったが、結婚の時にまいったのは、猶は容姿があまりよくなく、夫婦仲がよかったのか不明な点が多い。 次に二人目の嫁、寿衛子。万太郎からの一目惚れで結婚した年下の嫁。 ・さっそく神戸よりお便りくだされまた十日に電信くだされ。。。 次に猶さまにはご機嫌よろしく候や何とぞよろしく申し上げくだされたく候。 次に私方皆々無事安心下されたく候、また叔父様にも追々と御全快び相成五、六日前より床をあげ日々よろしき方ゆえ。。。。。。 まだ17歳のすえこは最初の文面はあて字が多く、読みずらいという。 しかし、後半の手紙は字も綺麗で文面もよくなっていく。 その代わり、借金が多くなり、家庭は貧乏な生活である。 二人の嫁から支えられて、万太郎(富太郎)は植物分類学で、立派な功績を残すのである。 朝ドラがどういう展開になっていくのか、これからが楽しみだ。
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