サー・ガウェインと緑の騎士 普及版 の商品レビュー
表題作のほかに「真珠」「サー・オルフェオ」「ガウェインの別れの歌」を所収。中英語で書かれた韻文作品をトールキンが現代英語に翻訳、それをさらに日本語にうつしかえたとのこと。うっかりトールキンによる創作か翻案なのかと思い込んでいたため、読みながらトールキンにしてはつまらないなあなど...
表題作のほかに「真珠」「サー・オルフェオ」「ガウェインの別れの歌」を所収。中英語で書かれた韻文作品をトールキンが現代英語に翻訳、それをさらに日本語にうつしかえたとのこと。うっかりトールキンによる創作か翻案なのかと思い込んでいたため、読みながらトールキンにしてはつまらないなあなどと思ってしまった(汗)。 粗忽。 いずれの作品も写本の形で残されたもので、作者は不詳、タイトルもこのままの形というわけではないらしい。トールキンがどういった研究をしていたか、興味が那辺にあったかなどを知るには大変いい本だと思うし、おそらくその意味での学術的価値もあろうが、『指輪物語』や『ホビットの冒険』のようなものを期待するとしたらまったくの肩透かし。以下、「ガウェインの別れの歌」以外の各篇の感想を少々。 「サー・ガウェインと緑の騎士」:アーサー王の宮廷は冒頭にほんの少しでてくるだけ。メインはガウェインが緑の騎士の館でうける試練の物語。試練というのは、騎士道物語にはよくあるテーマと思うが、なにかと三回なんだよね。騎士道物語だけじゃなく、民話などもそうかもしれない。このあたりで芥川の「杜子春」を思い出したりなどした。外観は古代中国だけれど、三度たずねられたりするあたりが、西洋中世の騎士道物語っぽい。あの眇の老人は、マーリンとかの魔術師っぽいと思ったのでした。 「真珠」:キリスト云々の話に少しついていけなかった。多分原文は美しいのだろう。おそらく。 「サー・オルフェオ」:タイトルから類推できるように、ベースとなっているのはオルフェウスの冥府くだり。妻が連れて行かれるのは、冥府ではなく妖精の国。原話のギリシャ神話とは違って、結末はハッピーエンドになっている。ギリシャ神話を換骨奪胎しているところが、興味深かった。 トールキン自身も頭韻を生かすよう訳文にはかなり工夫を凝らしているらしい。本書の訳者も日本語に移すに際しては、トールキンのひそみにならってかずいぶん苦慮されたそうだが、正直なところあまりうまいとは思えなかった(すいません)。誤植がぽつぽつあって、それがつい気になってしまった。普及版を出すなら、そのあたりも直すのが出版社の良心ではないでしょうか。わざわざ購入したものがこれではちょっと……。手抜きと感じてしまったのが、残念至極。
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