アーレントの哲学 の商品レビュー
アーレントの哲学を「人間の条件/活動的生」と「精神の生」を中心に内在的に読み解く試み。 そのキーワードは、「複数的な人間的生」ということで、私が個人的に一番知りたかったところかもしれない。 アーレントは、全体主義を理解するということにフォーカスした思想家であるが、全体主義を批...
アーレントの哲学を「人間の条件/活動的生」と「精神の生」を中心に内在的に読み解く試み。 そのキーワードは、「複数的な人間的生」ということで、私が個人的に一番知りたかったところかもしれない。 アーレントは、全体主義を理解するということにフォーカスした思想家であるが、全体主義を批判する一方で、なんらかのポジティヴさというか、オルタナティヴな可能性を考えた思想家でもあった。 全体主義が志向する単数性に対して、人間という存在は、それぞれ違うものとこの世界に現れる一つの始まりなのだという複数性が一つのキーワードとして出てくる。 このキーワードは、色々な著作の中で出てくるのだが、必ずしもまとまって論じられているわけではなく、それがアーレントの哲学全体のなかで、どう関連しているのかは、なんとなくはわかっても、必ずしも明確ではない印象であった。 この本では、まさにその「複数性」を中心に読み解こうとするものである。しかも、晩年の「精神の生」を「人間の条件」とあわせて、読み解くという本はあまりなかったと思うので、これはアーレント研究の一つのブレークスルーではないかと思う。(専門家でないので、本当にそうなのかは評価し難いのだが、少なくとも読者としてはそう感じる) 内容をコンパクトに紹介することは難しいし、著者の議論の進め方は丁寧で、章ごとに議論の要約があって、最後にわかりやすい全体の要約があるので、読んでいくとそれなりに理解可能な本だと思う。 ただ、アーレントの著作、特に「人間の条件」は読んでないと議論についていけないだろうなとは思った。 個人的には、「複数性」が、「人間の条件」の物語、世界、活動などにつながるだけでなく、「精神の生」の思考や意志にもつながりつつ、ここから活動に戻ってきて、一つの円環が閉じるところが美しいと思った。 これまで、「精神の生」の結論的な部分は書かれないままであった第3巻の判断がないと最終的な評価はできない感じがしていたのだが、第2巻の意志まででも、相当のところまで読み解けるところは素晴らしいと思った。 そして、全体を通して、私に残ったキーワードは、時間の中での持続性みたいなもの。哲学を複数性という概念から検討したときにそれが大事なんだなと。。。持続性というのは、アーレント用語では「世界」でもあって、その中で人間はしばしの安らぎを得ることが可能となる希望があるということか。
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