たなぴろ弁護士の恋する世界遺産 の商品レビュー
世界遺産を中心とした海外旅行記である。タイトルからは文字通り世界遺産中心に感じるが、むしろ旅行記が主体である。 本書は旅行の注意事項も書いている。例えば香港の繁華街では「日本人を観ると、偽ブランド品を売ってくる人や闇タクシーに乗らないかと誘われますので、十分気を付けましょう」と...
世界遺産を中心とした海外旅行記である。タイトルからは文字通り世界遺産中心に感じるが、むしろ旅行記が主体である。 本書は旅行の注意事項も書いている。例えば香港の繁華街では「日本人を観ると、偽ブランド品を売ってくる人や闇タクシーに乗らないかと誘われますので、十分気を付けましょう」とある(34頁)。海外で購入した偽ブランド品やコピー商品を日本国内に持ち込むことは違法である。 逆に世界遺産の点からは物足りなさもある。中国旅行では香港、マカオ、上海、杭州を紹介する。しかし、中国の世界遺産と言えば万里の長城だろう。日本で「日光を拝まぬうちは結構と言うな」、イタリアで「ベニスを見てから死ね」と言われるように、中国には「不到長城非好漢」(長城に至らずんば好漢にあらず)との言葉がある。 中国は広大である。私は東北や華北にシンパシーを感じている。それに比べると上海や香港は遠く感じる。しかし、「上海は九州から近いです」(40頁)とあるように九州人には別の感覚がありそうである。 サッカー観戦の旅行の中で世界遺産巡りをするように世界遺産マニアというよりミーハー的である。ミーハーが悪いことではなく、読者層を広げるメリットがある。旅行計画の立て方にも触れており、世界遺産マニアというよりも世界遺産旅行マニアである。 ポーランドの古都クラクフにはモンゴルのポーランド侵攻に由来する文化遺産がある。これについて「モンゴル軍は日本にも来襲しましたが、反対側はポーランドまで来ていたことにも驚きますよね」との感想を寄せている(213頁)。世界史知識ではモンゴルがポーランドまで侵攻したことは有名で、逆に日本にも来襲したことが驚きになる。 ミーハー色のある本書であるが、第6章「負の遺産の旅(戦争について考える)」で敷居の低さは変わらないままダークツーリズムを特集している点は注目に値する。 リトアニアのシャウレイの十字架の丘はロシアやソ連に弾圧されて処刑された人々やシベリアへ流刑された人々を悼んだものである。本書が出版された2022年はロシア連邦のウクライナ侵攻が起きた。リトアニアなどロシア連邦の周辺国にとってウクライナ侵略が他人事ではないことが理解できる。 アウシュビッツ・ビルケナウ強制収容所は「善意によってユダヤ人を保護収容する場所」と宣伝していたとする(216頁)。これは恐ろしい。現代でも、この種の論法は皆無ではない。精神病患者の強制入院や拘束でも同じ論法が使われている。権力側の「善意」は最も批判的に見なければならないものである。
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