ベストSF2022 の商品レビュー
手に取ったきっかけは、伴名練さんの百年文通を紙で読みたかったからでしたが、他の短編も遜色のない、まさに2021年のベストに相応しい珠玉の短編集でした!ここに斜線堂有紀さんの回樹も入るはずだったというのだから、いかに豊作の年だったかがわかります。 特に印象的な作品は下記の通り。い...
手に取ったきっかけは、伴名練さんの百年文通を紙で読みたかったからでしたが、他の短編も遜色のない、まさに2021年のベストに相応しい珠玉の短編集でした!ここに斜線堂有紀さんの回樹も入るはずだったというのだから、いかに豊作の年だったかがわかります。 特に印象的な作品は下記の通り。いずれも心躍る素晴らしい物語でした。 ○ 十三不塔「絶笑世界」 笑い死ぬ病気に対してのカウンターとして、死ぬほどつまらない漫才を見せるという発想がとても面白い!お笑い芸人なのに笑わせてはいけないという矛盾に葛藤する主人公たちや芸人仲間の在り方や、それでも希望を感じさせるラストの流れが印象的な作品でした。 ○ 坂崎かおる「電信柱より」 「無生物との百合」というコンセプトはまだしも、その相手が電柱ということにはじめは理解が追いつかなかったのですが、主人公夫婦同様、読んでいるうちに「あれ?もしかしたら電柱って魅力的なのかも?」と思わせる文章力が凄まじい。恋愛模写も素晴らしく、最初の印象とは打って変わって、とても爽やかな読後感を味わえました。 ○ 伴名練「百年文通」 伴名練さんの作品は一度読みだすと止まらなくなるんですが、この凄まじい文章力はなんなんでしょうか。ガンガン歴史改変されていく流れに、「ちょっとやりすぎじゃないか?」と思わなくもなかったんですが、「大好きな人のために、今の自分にできることを本気でやり遂げたい」という登場人物の想いの前には無粋ですね。SFとしても百合としても、最高の作品でした。 ※無断と土は異常論文で一読済みでしたが、相変わらず理解が追いつかず…。いつかこういう小説(論文?)もしっかり楽しめるようになりたいです。
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「もふとん」が特におもしろかった。「神の豚」もなかなか。しかしそれくらい。 === 酉島伝法「もふとん」★★★★★ - えぐい系かと思いきや、全くそんなことはなく、ユーモアSFであった。 - なぜか布団が存在しない世界。誰もが睡眠不足で不健康なまま、それが当たり前だと思っている世界。主人公はある時、膚団というもふもふの布団のような生き物を見つけ、それにくるまって寝ることで健康的になり、それが徐々に世間でも布団で寝ることがはやってしまう。 吉羽善「或ルチュパカブラ」★★☆☆☆ - 昔、チュパカブラを目撃したことがある男の回想。なんか普通にチュパカブラがいることになってた。 「神の豚」★★★★☆ - 大森さんの解説にある通り、確かにSF味は薄いものの、面白かった。何が面白かったのかはなんとも言えないけど。ややディストピア感のある未来の台湾で、兄の失踪とともに突如豚が現れる。 「進化し損ねた猿たち」★★★☆☆ - 史実を元にした過酷な戦時中のジャングルでの行進を描いた短編だけど、SF味はほぼない文学作品として。 「カタル、ハナル、キュ」★★★☆☆ - 「ポストコロナのSF」にて既読。 「絶笑世界」★★☆☆☆ - 笑いが止まらなくなる病気が世界中に伝染する中、クソつまらないお笑いコンビが笑いを止めるために奮闘する話。 - 小説としてはまあまあ。 円城塔「墓の書」★★★★☆ - 円城塔のメタい作品。らしさのある屁理屈SF。 - ヴァン・ダイン曰く、長編には死体が必要。209 - 211 探偵役がいることによって、過大に死者が生まれてしまう 「無断と土」★★☆☆☆ - 「恐怖」についての異常論文タイプのSF。ホラーゲーム制作ツールPSを用いて作られた『WPS』を題材に説明していくスタイル。 - なんとなく面白げなんだけど、意味わからんすぎた。 「電信柱より」★★★☆☆ - 電柱に恋をした人のほのぼの系ロマンス。 伴名練「百年文通」★★★☆☆ - 百年前の大正時代と繋がっている机の引き出し。イチルは大正を生きる静と文通をする。面白いけど、コロナ禍を意識しすぎててちょっとしんどい感もあり。
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尖りすぎて、何が書いてあるのか解らない的な作品は含まれていないのだけれど、読むのにかなりな体力を要求する作品が多め。最近のSFブームで、興味を持ったルーキーさんを遠ざける効果は、却ってあるかも知れない。ちょっと気になる。収録作のレベルは文句なく高いです。個人的ベストは「電信柱より...
尖りすぎて、何が書いてあるのか解らない的な作品は含まれていないのだけれど、読むのにかなりな体力を要求する作品が多め。最近のSFブームで、興味を持ったルーキーさんを遠ざける効果は、却ってあるかも知れない。ちょっと気になる。収録作のレベルは文句なく高いです。個人的ベストは「電信柱より」にしましょうか。
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Amazonで予約していたベストSF2022が手元に届くタイミングでベストSF2021を読み終えるという絶妙のタイミング、神憑っていると思ったが別に大したことではないな。表紙のイラストが、これまでの硬派のイメージに対して実にカワイイ。作品の内容に呼応しているのだろうかと期待は膨ら...
Amazonで予約していたベストSF2022が手元に届くタイミングでベストSF2021を読み終えるという絶妙のタイミング、神憑っていると思ったが別に大したことではないな。表紙のイラストが、これまでの硬派のイメージに対して実にカワイイ。作品の内容に呼応しているのだろうかと期待は膨らむ。さて今回はどんな作家に出会えるのだろうか。それでは、いつもどおり作品の感想を簡略に述べる。 〇 酉島伝法「もふとん」 覚醒剤の反対、睡眠剤。しかも常習性の面では共通性がある。覚醒剤は人工的に作れるが、もふとんは・・・。今後、我々はどうすりゃいいの。 〇 吉羽善「或ルチュパカブラ」 SFというよりはホラー小説に分類される。 〇 溝渕久美子「神の豚」 「Genesis 時間飼ってみた」にて既読。これも、SFなの? 〇 高木ケイ「進化し損ねた猿たち」 面白いけどSFなの??? 〇 津原泰水「カタル、ハナル、キユ」 音楽の話なので、これはいけるかなと思ったが、途中で挫折。一応パラパラ読みしたけど全然心に引っかからなかった。 〇 十三不塔「絶笑世界」 設定が苦しいが論理展開も強引。ああ、そうなの、で終わり。お笑いタレント及びお笑いタレントを目指している人には読ませたくない作品。特に、お笑いを愛して、それほど売れなくてもいいからなんとか芸人を続けている人には絶対に読ませたくない。 〇 円城塔「墓の書」 円城作品なのでパス。 〇 鈴木一平+山本浩貴(いぬのせなか座)「無断と土」 最近のSF界では異常論文がもてはやされているが、一体何人の日本人が異常論文系の作品を評価しているのか。異常論文を理解できる人こそが真のSFファンだという風潮が実に気持ち悪い。 〇 坂崎かおる「電信柱より」 擬人化と百合の融合作品。リサのような人が増えてきたら電信柱のDをとって、LGBTDとして一般化されるのか、それとも人間という概念を超えたLGBTQになるのか。まあその様に大袈裟にとらえなくても、ものに対する愛情というのは多かれ少なかれ人間にはある。しかしそうではあっても、リサの心理描写には特筆すべきものが多くある。これもSFなのだろうか。 〇 伴名練「百年文通」 伴名作品につきパス。 今回は特筆すべき作品はなし。それよりも、あまりにもSF感なさすぎじゃないですか。これが現代のSFなの?大森望がSFって言えば全てSFになるの?と激怒して何気なく本の帯を見たら「またSFが死んだらしい」「ではこの傑作選はいったいなんなのか」と書かれてあった。編集部が言う「面白い樹々」には出会えなかった。34回死んだSFに出会いたい。
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