精霊たちの迷宮(上) の商品レビュー
忘れられた本の墓場シリーズ四部作の最終話が本国スペインで大絶賛されているのを横目に見ながら翻訳を待っていた間に、あろうことか著者が50代前半で病気で亡くなったという報に接し、打ちひしがれながら、日本語への訳出をじっと待っていました。もう何年も本は買わずに借りて読んでいますがこれだ...
忘れられた本の墓場シリーズ四部作の最終話が本国スペインで大絶賛されているのを横目に見ながら翻訳を待っていた間に、あろうことか著者が50代前半で病気で亡くなったという報に接し、打ちひしがれながら、日本語への訳出をじっと待っていました。もう何年も本は買わずに借りて読んでいますがこれだけは手元に持っておきたいと買い求め、読みたいけれど読み終わりたくないのでなかなか読みだせず、それでも読みたい気持ちが勝ったので前作『天国の囚人』をまず読んでから読みました。片手で長時間支え持つにはつらいほどのボリュームに、1ページ足りとも物足りない文章がない恐るべき密度と情報量で、一読では消化しきれず感想も記すことができないと思い、改めて『風の影』からすべて読み返し、昨日、すべて読み終わりました。読んでいてしんどくなる暴力や虐待、残虐な描写も、登場人物を飲み込んでしまうほどの悲しみや怒り、その結果の狂気も、サフォンの筆にかかると恐ろしいし怖いし避けたいはずなのにぐいぐいと引き込まれ読むのをやめることができません。それでも全てを読み通した後には、不思議なほどに清らかで豊かな満足感が湧いてきます、そしてすぐさま、また読み返したくなるのでした。物語が秀逸なのはもちろん、登場人物のセリフが大変気が利いていてすばらしいので、大きな展開を把握していて落ち着いてじっくり読めた再読の方が数段堪能できたように思います。シリーズを通して何人も小説家(サフォンが男性だからか、すべて男性)が登場し、書くことの寿ぎと呪い、喜びと苦しみが語られるのですが、一方では小説家と対になる存在のようにして「読者」のことにも筆を割いてくれてあり、ひとりの読者としてとても感動しました。亡くなられたことを知ってとても悲しいですけれど、サフォンと同時代に生まれ育ったこと、サフォンの作品を日本語に、それも極上の日本語に訳してくださった翻訳者の方に恵まれたことに心の底から感謝しつつ、また折々に読み返したいと思います。もう1冊未読の短編集があるので、そちらも入手するつもり。
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「また偶然の一致ですか? 二十年警察にいて、偶然の一致なんか、現実にこんなにお目にかかったことがない、真実を言う人間のほうが、よっぽど多いですよ」 もちろん、この天才作家が紡ぐ旋律に偶然など存在しない 多くの時と多くの場所を跨いで語られるエピソードは、一見すればなんの繋がりも...
「また偶然の一致ですか? 二十年警察にいて、偶然の一致なんか、現実にこんなにお目にかかったことがない、真実を言う人間のほうが、よっぽど多いですよ」 もちろん、この天才作家が紡ぐ旋律に偶然など存在しない 多くの時と多くの場所を跨いで語られるエピソードは、一見すればなんの繋がりもなく、ただ意味もなく殴り書きされたようにも思える しかし、もちろん全ては迷宮の出口へと導く細い糸なのだ 『失われた本の墓場』シリーズ四部作完結編上巻は、これまでの全ての登場人物が持つ細い糸を撚り合わせ、辿ることで見え始めた光差す出口へ向かわせる しかし出口が見えたとほっと胸を撫で下ろす者たちを嘲笑うかのように、新たな悲劇が再び闇をもたらして上巻は役目を終える 果たして、迷宮を彷徨う者にどんな出口が待ち受けるのか 物語が持つ必然はどんな驚きを用意しているのだろうか
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「忘れられた本の墓場」シリーズ四部作完結編 バルセロナという街の持つ幻惑的な魅力と物語が錯綜して翻弄される。もう一度全部読み直すべきか?これはこれで楽しんでも良いか。美しい文章の余韻に浸りながら読む。下巻へ。
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2022/10/7読了 ’20年6月に逝去したサフォンの〈忘れられた本の墓場〉シリーズ完結編。前3作を凌ぐボリュームで引っ張ってくれたが、結局のところ、黒幕のバルスですら、当時のスペイン独裁政権の中では、使い捨ての駒だったのか、という虚しさが残った。 それにしても、〈忘れられた本...
2022/10/7読了 ’20年6月に逝去したサフォンの〈忘れられた本の墓場〉シリーズ完結編。前3作を凌ぐボリュームで引っ張ってくれたが、結局のところ、黒幕のバルスですら、当時のスペイン独裁政権の中では、使い捨ての駒だったのか、という虚しさが残った。 それにしても、〈忘れられた本の墓場〉は、脳内でイメージしても、エッシャーの絵じゃないが、あり得ない構造としか思えない。
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