人生と運命 新装版(2) の商品レビュー

ワシーリー・グロスマン(著者),齋藤紘一(訳者)

2023/02/05

ナチは世界的ユダヤ民族という考えをでっちあげ、それに人種主義、世界支配への渇望、祖国ドイツへのコスモポリタン的な無関心という特徴づけをし、自身の固有の特徴をユダヤ人の特徴であるとした。しかしこれは反ユダヤ主義の一側面に過ぎない。反ユダヤ主義は凡庸さの表れであり、人生の闘いのいたるところ、科学、商業、手工業、美術において対等では勝てないことの表れである。反ユダヤ主義は人間的凡庸さの尺度である。諸国家は自らの失敗の説明を世界的ユダヤ民族の陰謀に求める。しかしこれは反ユダヤ主義の一側面に過ぎない。反ユダヤ主義は、自らの不幸と苦悩の原因を究明する力のない国民大衆の意識の低さの現れである。無知な人々は、自らの大きな不幸の原因が国家機構や社会制度にではなくユダヤ人にあると見る。しかし反ユダヤ主義が大衆の中に見られるということも、反ユダヤ主義の一側面である。反ユダヤ主義は、社会の底辺にくすぶる宗教的偏見の尺度である。しかしこれも反ユダヤ主義の一側面にすぎない。ユダヤ人の容貌や話し方、その食べ物に対する不快感はもちろん、生理学的反ユダヤ主義の真の原因ではない。ユダヤ人の縮れた髪の毛や身振り手振りについて不快感をもって話す人間が、ムリーリョの絵に見られる子供たちの黒い縮れた髪には魅了されるのだし、アルメニア人の喉音の多い話し方や身振り手振りを気にせず、青っぽい唇の黒人を親しみを込めて見ているのである。反ユダヤ主義は、少数民族が受ける一連の迫害の中の特別な現象である。この現象が特別であるのは、ユダヤ人が歴史絵t気に独自の特別な運命をたどったからである。PP262-263