コールダー・ウォー の商品レビュー
プーチンはアメリカのドル覇権に風穴を開けようと仕向ける。本書では「超冷戦」とあるが、これは軍事力ではなく、世界のエネルギー供給をコントロールする力で戦う。プーチンは新たな戦略に基づいて内政、外交を展開する。ロシア国内では、第2次チェチェン紛争の対応から、支持率が急激に伸びて、大...
プーチンはアメリカのドル覇権に風穴を開けようと仕向ける。本書では「超冷戦」とあるが、これは軍事力ではなく、世界のエネルギー供給をコントロールする力で戦う。プーチンは新たな戦略に基づいて内政、外交を展開する。ロシア国内では、第2次チェチェン紛争の対応から、支持率が急激に伸びて、大統領選挙でみごと当選した。その後、大統領に就任して、自分の意に沿う者たちを周囲に固めた。プーチンはスターリンと比較されがちだが、本書でこれは誤りだと指摘する。たしかにどちらも非情な人物であるが、プーチンは合理主義者で、彼の戦略を実行するために、つまり資本産業を支配するのに権力、財力のある者の協力が重要だと認識している。以上から、プーチンの体制がいかに盤石であるのかが理解できる。 一方で外交においては、旧ソ連の諸国、中東との連携が戦略上必要であるので、こちらも国内同様大切である。とりわけシリアのアサド政権は、ロシアの利益を確保するのに重要であり、ゆえにアサド政権を支援する。仮にアサド政権が倒れて、新たなイスラム勢力がロシアに向けられるのは安全保障上危険である。また反ユダヤ思想が強いロシアであるが、プーチン自身は反ユダヤではないので、意外にもイスラエルとの関係は良好である。そのほかにも中国との関係も強く、いずれもアメリカのドル崩壊が目的である。
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ニクソンショックにより、金ドル本位制が崩れた、、、と、大昔学校で聞いた覚えがある。 それでもドルが力を失わなかったのは、何故?というお話。 情け無いことに、出てくる産油国その他の地名は、いちいち地図を見ないと全くわからないし、政治、宗教、全くピンとこない。 字を追うのがやっとで...
ニクソンショックにより、金ドル本位制が崩れた、、、と、大昔学校で聞いた覚えがある。 それでもドルが力を失わなかったのは、何故?というお話。 情け無いことに、出てくる産油国その他の地名は、いちいち地図を見ないと全くわからないし、政治、宗教、全くピンとこない。 字を追うのがやっとで到底理解したといえるレベルには至らないながら、エネルギー資源の確保と流通は、とても大きな課題だったし、これからの世界を左右する、ということは、よくわかりました。 でも、最後のまとめが、だから身を守るには投資先を考えろ、というのは、さすがアメリカンだなーとも。 この本が発刊されて7年、今文庫化された、ということは、書かれていることのほとんどは今も読む価値がある、ということなのだろう、と思う。 どこまでが、想定内で、どこは想定外だったのか、今振り返って内容を検証した結果も知りたいなーと思いました。
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おもしろかった、いろいろなことが腑に落ちた一冊でした。 プーチンのロシアを軸として世界が描かれています。 結論からいうと、プーチン:ロシアの戦略とは、エネルギー支配をてことした、パワーシフトである。 世界の過半を握るエネルギーを手にしたプーチンは、新しく西側に新冷戦をしかけて...
おもしろかった、いろいろなことが腑に落ちた一冊でした。 プーチンのロシアを軸として世界が描かれています。 結論からいうと、プーチン:ロシアの戦略とは、エネルギー支配をてことした、パワーシフトである。 世界の過半を握るエネルギーを手にしたプーチンは、新しく西側に新冷戦をしかけているというのが結論です。 気になったことは以下です。 ・プーチンはロシアの英雄である。よっぱらいエリツィンからロシアを引き継いだプーチンは、チェチェンを勝ち抜き、汚職にまみれたエネルギー会社を国産化し、ロシアにふたたび富をもたらした。 ・プーチンの政治モデルは、ピョトール大帝。強いロシアがプーチンの信条を支えてきた。 ・第2次大戦の遠因は、石油である。日本と同様石油資源を持たなかったドイツは、ソ連がもつ、カザフスタン、キルギスなどにある石油と、ウクライナにある穀物を押さえるための戦いしかけた。 ・同様、イギリスも石油をもっていなかったので、イランを押さえて石油の権益確保に動いた。 ・中東の石油資源をおさえたのは、メジャー、いわゆる、セブンシスターズであった。 ・中東戦争は、イスラエルに協力した国を、OPECが禁輸措置にしたきっかけとなった。 ・ソビエトは、石油資源に恵まれていたにも関わらず、その設備を更新することを怠ったために、資金がなくなり、崩壊にいたった。 ・ソビエトは、パイプラインをインド洋に伸ばそうとして介入したアフガニスタンで大敗を喫し、その崩壊をはやめた。もっとも、そのアフガニスタンを支援したアメリカもアルカイダを支援することになり、アフガニスタンは、「大国の墓場」とよばれた。 ・ブーチンは、石油のみならず、天然ガスや、ウランをも資源として押さえて、エネルギーをロシアの戦略にまで打ち立てた。 ・ウクライナの理屈は、もともと、ロシア系の住民から、支援要請があったこと。パイプラインの通すために、安価に天然ガスをおろしていたにもかかわらず、ウクライナが支払っていなかった。ロシアは平坦で、どこから責められてもおかしくない。そのために、緩衝地帯としての、衛星国を必要としていた。 大きく3部に分かれています 前段 プーチンの経歴と分析 中段 プーチンのエネルギー戦略 後段 中東戦略から、シェールオイル、そして、ペトロダラーの凋落へ 目次 第1章 失われた十年の終わり 第2章 新興財閥(オリガルヒ)との戦い 第3章 グレートゲームと新冷戦 第4章 スラブ戦士プーチンの登場 第5章 ウクライナ問題 第6章 プーチン分析 第7章 プーチンの石油戦略 第8章 天然ガス戦略 第9章 ウラン戦略 第10章 対中東戦略 第11章 黄昏のペトロダラーシステム 第12章 ペトロダラーシステム崩壊後の世界 日本語版のための最終章 エネルギー市場のデフレ傾向のなかで試されるプーチン戦略 参考文献 訳者あとがき 文庫版訳者あとがき
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2022年2月、ロシアはウクライナへ、特別軍事作戦と称して侵攻を始めた。この覇権主義的な動きに対して、ロシアから見た戦略が詳述されている。 7年前の著作であるが、今日の状況を的確に読み当てている。米国が築き上げたペトロダラーシステム(石油取引を全てドル建てにすること)が力の源泉で...
2022年2月、ロシアはウクライナへ、特別軍事作戦と称して侵攻を始めた。この覇権主義的な動きに対して、ロシアから見た戦略が詳述されている。 7年前の著作であるが、今日の状況を的確に読み当てている。米国が築き上げたペトロダラーシステム(石油取引を全てドル建てにすること)が力の源泉であることを喝破したプーチン。ソ連の崩壊とともに始まった米国一国覇権主義へと挑戦する。したたかな彼のキャリアを追いながら、ロシアのトップに登り詰めた経緯が手に取るようにわかる。豊富な石油と天然ガスを基軸とする戦略で、ペトロダラーシステムの突き崩しを図る。ウクライナへの侵攻は決して許されるものではないが、誘起させた要因について、偏見をもつことなく、冷静に分析することの重要性を示唆させる。史実とデータに基づき、考え抜かれた力作である。
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「佳いモノを好い時期に文庫化」と言い得る企画だと思う。本そのものは2015年頃のモノであるが、旧いということは全くないと思う。「今!」であるからこそ、広く読まれて然るべき内容を多く含んでいると思う。 ロシアのプーチン政権は、「ソ連の後」というような混乱して行った様相を収拾し、そこ...
「佳いモノを好い時期に文庫化」と言い得る企画だと思う。本そのものは2015年頃のモノであるが、旧いということは全くないと思う。「今!」であるからこそ、広く読まれて然るべき内容を多く含んでいると思う。 ロシアのプーチン政権は、「ソ連の後」というような混乱して行った様相を収拾し、そこから「新たな道」を模索し続けている権威主義的な政権体制である。その権威を確立しながら混乱していた様相を収拾した様、加えて「何を目指している」というのが本書の要旨だ。 更に「何を目指している」の核心部分が「資源エネルギー」ということになる。「世界最大級の産油国」であり、「天然ガス大国」であり、「原子力大国」でもあるロシアでは、「ソ連の後」とう混迷から立ち直って力を蓄えた中で、「世界の政治経済の中で立ち回る“カード”」として資源エネルギーを効果的に利用しようとしている面が在る。 こういうロシアに対し、米国は1970年代に「ペトロダラー」というような体制を構築し、それが原則的には最近も続いている。これは、米国とサウジアラビアとの談合が核になっているのだが、「石油の取引に利用する資金はドル。他通貨は原則的に使わない、使わせない」とでもするような体制のことである。 或いはロシアは、この「ペトロダラー」というような体制を侵食して形骸化しようとしているのかもしれない。対して、米国は「ペトロダラー」というような体制を背景に、無制限に紙幣を刷り続けるようなことをしているのかもしれない。 全体を通じてそういう論旨である中に、様々な国や地域の変遷というようなことも各々に詳しく語られていて、本書は読み応えが在る。 「ソ連の後」というような混乱が収拾されようとしていた中での、天然ガスパイプライン等を巡る事柄に関連して、ウクライナを巡る事項にも随分と詳しい言及が在った。2014年の“革命”で政権が倒されてしまった辺りまでの、色々な詳しい様子が判り易く纏まっていると思う。 「声が大きい」と見受けられる側に「乗る」だけでは何も判らないのだと思う。本書のようなモノを含めて、静観しながら「考える材料」をゆっくり集め続けるというようなこと、集めて眼を通しながら熟考するというようなことも、世界の情勢を考える中で必要な営為なのだと思う。 「ペトロダラー」というような体制は、言わば「米国の一極」という世界だ。それを形骸化すれば、何やら「多極化した世界」ということになって行くのかもしれない。本書の時点までの積上げ、更にその後の極最近に至るまでの経過で「多極化」が進んでいるのかもしれない。考えてみれば、「ロシアも含む、様々な国々の相互依存」が、プーチン政権の経過と半ば重なる最近20年間位で、より大きくなって複雑になっているのである。「事件」が在ったとて、単純に非難の拳を振り上げるだけで、「事件」を巡る状況が好転するというようにも思い悪いのだが。 「コールド・ウォー」(冷戦)の「コールド」を比較級の「コールダー」として「コールダー・ウォー」(より冷たい戦い)と本書は名乗っている。「体制を侵食して形骸化」ということになれば、正しく「“兵器”そのものでもない“武器”」が投じられている「闘い」が展開中ということなのかもしれない。 本書は、ロシアの動向を考えるというような体裁ではあるが、寧ろ「米国が構築して、維持し続けた“体制”が、現在になって如何なのか?」という問題提起であるような気もする。 本当に「佳いモノを好い時期に文庫化」ということであると思う。本書は広く御薦めしたい。
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