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ポール・ヴァーゼンの植物標本 の商品レビュー

4.8

5件のお客様レビュー

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2024/07/06

東京の古道具屋店主がフランスの蚤の市で見つけた古い箱のなかには、20世紀初頭にスイスとフランスで採集されたとおぼしい、百葉近い植物標本が収められていた。今でも花の色が残る素朴で可憐な標本の写真に、堀江敏幸による短篇が添えられた一冊。 とても可愛らしい標本。採取した土地と学名だ...

東京の古道具屋店主がフランスの蚤の市で見つけた古い箱のなかには、20世紀初頭にスイスとフランスで採集されたとおぼしい、百葉近い植物標本が収められていた。今でも花の色が残る素朴で可憐な標本の写真に、堀江敏幸による短篇が添えられた一冊。 とても可愛らしい標本。採取した土地と学名だけが書かれていてアカデミックなものではないみたいだけど、できるだけ地面に生えていた姿に近づくようなレイアウトを工夫しているのがわかる。 だから黄ばんだ無地の台紙の上に貼られているだけで背景なんかないのに、標本になった一本の向こうに他の草や地の色が見えてくる気がする。単に状態がいいというだけじゃなく、自分の見た景色をパックしようとした作り手の思いが時を超えて伝わってくるようなあたたかさ。どこに発表するでもなく、もしかすると誰かに見せるつもりすらなかったかもしれない。これが思い出の残し方として一番純粋なのではないかと考えてしまうほど。 この図録に添えるものとして堀江さんの短篇はぴったりだと期待したけれど、おそらく男性を想定した指南役や、標本を持ち続けた存在のほうに気持ちが向いていて、ヴァーゼンその人を幻視するようなお話じゃなかったので残念。「ゼラニウム」の収録作みたいなのが読みたかったな。 男性主体の物語に取り込んでしまうならむしろこのキュートな飾り文字の署名が作り物で、ポール・ヴァーゼンという架空の女性を夢想するために箱いっぱいの植物標本を作りあげた男の物語だとか、そのくらいまでいってほしかった。平出隆の『葉書でドナルド・エヴァンズに』とか、チャールズ・シミックの『コーネルの箱』のような本に連なる作品になるポテンシャルがあったと思う。でも堀江さんが思い入れを持って接近したわけじゃないだろうから仕方ないのか。

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2023/03/11

100年も前の物とは思えないほど、綺麗な状態で残っている植物標本。 丁寧で、優しい花々に魅了されました。 そして、ポール・ヴァーゼンさんとはどんなかただったのだろう? 偶然蚤の市でみつけられたこの標本。 入っていた紙箱に書かれていた「Melle Paule Vaesen」(Mel...

100年も前の物とは思えないほど、綺麗な状態で残っている植物標本。 丁寧で、優しい花々に魅了されました。 そして、ポール・ヴァーゼンさんとはどんなかただったのだろう? 偶然蚤の市でみつけられたこの標本。 入っていた紙箱に書かれていた「Melle Paule Vaesen」(Melle=マドモワゼル)の文字から、かわいい女の子が思い浮かぶ。 誰も本当のことはわからないが、寄宿学校の庭で採集し、大事に大事に標本にしたのかな・・・なんて想像するのも楽しい。 とっても優しい気持ちになれる本でした。

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2023/02/25

かわいいといとおしいをギュッとつめこんだ本。時代も国も違うヴァーゼンさんと、植物を通してひそひそ話をしているみたい。堀江敏幸さんの文章もとてもよい。

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2024/08/09

アンティークショップ 店主が南仏の蚤の市で 偶然見つけた植物標本。 遡ることおよそ百年前、 ポール・ヴァーゼンと いう女性によって、 個人的に作られた標本 だそうです。 どこか清廉として品が あり、 製作者の持つ美意識の 高さを感じます。 作品毎に採集地が記録 されて...

アンティークショップ 店主が南仏の蚤の市で 偶然見つけた植物標本。 遡ることおよそ百年前、 ポール・ヴァーゼンと いう女性によって、 個人的に作られた標本 だそうです。 どこか清廉として品が あり、 製作者の持つ美意識の 高さを感じます。 作品毎に採集地が記録 されており、 高地の凛とした空気に 包まれて、 ポール・ヴァーゼンと いうその女性が、 そこで過ごした時間に 暫し想いを馳せました。

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2022/08/09

 標題が書かれたページをめくって一番最初に目に飛び込んできた可憐な花の標本。興味がない人には響かない本なのかもしれませんが、私はすごい本に出会ってしまった、と思いました。  台紙の右下に流麗な筆記体で書かれた学名はLeontopodium alpinum。和名はエーデルワイスです...

 標題が書かれたページをめくって一番最初に目に飛び込んできた可憐な花の標本。興味がない人には響かない本なのかもしれませんが、私はすごい本に出会ってしまった、と思いました。  台紙の右下に流麗な筆記体で書かれた学名はLeontopodium alpinum。和名はエーデルワイスです。採取されてから長い月日が経った6輪の花の色は黄色と緑がかった白に美しく退色し、丁寧に、まるで花束のように台紙に貼られています。  次のページは生き生きと伸びたセイタカセイヨウサクラソウが2輪。楽しく語り合っているようです。  ページをめくるたびに目に入る花々。あるものは鮮やかに青く美しく、またあるものは儚いピンク色。100年の時を超えて生息地へ私たちを連れて行ってくれます。  堀江敏幸氏が書き下ろした物語が植物採集や哲学について語っていきます。この標本を作ったポール・ヴァーゼンはどんな人なのだろう。誰と一緒に採取し、誰のために、何処でどの様な表情をしながら押し花にし、そしてどうして採取した日を記入していないのだろう。想像はどんどんと膨らんでいきます。  すべての標本から静かな愛情を感じます。その愛は植物に対する愛だけではないような気がします。 472.3

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