レイシズム運動を理解する の商品レビュー
著者は1920年代のKKKから今日のスキンヘッズまで、アメリカの極右レイシスト運動に参加する女性たちを調査してきた研究者。そんな長いキャリアをもつベテランであっても、恐怖をともなうレイシストとの交渉には疲弊しきってしまい、いったんは研究の継続を断念したことさえあるという。自分自身...
著者は1920年代のKKKから今日のスキンヘッズまで、アメリカの極右レイシスト運動に参加する女性たちを調査してきた研究者。そんな長いキャリアをもつベテランであっても、恐怖をともなうレイシストとの交渉には疲弊しきってしまい、いったんは研究の継続を断念したことさえあるという。自分自身はまったく共感できない差別主義者であり、FBIの捜査対象にさえなっているような危険な集団のフィールド調査をどう行うのか、その悩みや困難が率直に吐露されていて、若手研究者には特に役立つだろうし、専門外の者にとっても興味深く読むことができる。 もともとは若き革新的フェミニストの歴史家として、埋もれた労働運動の歴史を掘り起こそうと意欲に燃えていた著者が、女性のレイシスト運動の研究を始めたきっかけとは、昔の女性参政権運動のチラシを見ていたところ、それがKKK女性部発行のものだと気づいてショックを受けたからだという。 20年の研究を経たのちに著者は、女性たちは「なぜ」レイシズム運動に参加するのかという一般化可能な説明は困難であることを認め、「いかに」レイシズム運動に参加するのか、であれば語ることができるという。多くの人びとは個人的なつながりから運動にひきこまれ、レイシズム的見方を学習し、その結果としてさらに一般社会からの孤立を深めていくのだ。著者は、研究者である自分を不可視の存在としてしまわず、自身のもつ枠組みや感情、主観の限界にきわめて意識的で反省的だ。そこに本書のもつ大きな価値のひとつがある。 極右運動の女性たちは、たいてい、メンバーの男性の恋人として補助的役割を果たしているのだろうくらいに想像されている。だがKKKの女性たちは、自らリンチに参加しないまでも、カトリックやユダヤ人に関する悪い噂を流すおしゃべり部隊として、燃える十字架の行進の見物人になったり、日曜日の楽しいイベントを組織したりして、KKKの成功と持続に大きな役割を果たしていたのだった。 他方、ヨーロッパでは、アメリカにおける小さな非合法グループでしか活動の場が得られない女性たちが、極右政党で議員として公的に活動することもできている。こうした社会構造の変化が、レイシズムの枠組みを通したフェミニズムをどのように発展させていくことになるのか。興味深いとばかりは言っていられない恐ろしい問題でもある。
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