工藤會事件 の商品レビュー
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工藤會事件 著者:村山治 発行:2022年6月30日 新潮社 北九州市を拠点にする工藤會は、非常に暴力的で恐ろしいヤクザというイメージがある。組同士の抗争に巻き込まれて市民が犠牲になるというのではなく、直接、市民を殺したり襲ったりするやりたい放題の集団だと。福岡県警は一体なにをしているのだろうとも思っていた。そんな工藤会のトップ2人が捕まり、1人に死刑判決が出たニュースを読み、驚いた覚えがある。 実行犯でももちろんないのに、組織のトップとして死刑になるの?と思った。この本を読むと、そうではなくて、共謀共同正犯でそうなったらしい。2021年に一審判決が出て、今、控訴審中のようだ。ナンバー1の総裁が死刑、ナンバー2の会長が無期懲役。しかも、実行犯の逮捕から何年もあとに逮捕され、有罪になった。 これまで通りにしていれば、2人は逮捕されないか、されても不起訴だったかもしれない。福岡地検と小倉支部の検事、福岡県警による頂上作戦によって、やっとそれが可能になった。以来、市民への襲撃はゼロが続いている。 著者は、毎日新聞と朝日新聞で記者を経験し、今はフリーのジャーナリスト。この本は、ノンフィクションライターとして深掘りの調査報道をしてなにかを明かしたというより、新聞報道をより詳しく、時系列で事件を紹介したという趣の本。図書館で随分長く待たされた人気本だったが、とくにこ目を瞠るような内容は見当たらなかった。 1審で、死刑判決が出たのは工藤會総裁の野村悟、無期懲役は会長の田上不美夫。彼らは、下記の主な殺傷事件の①②③⑤の4つ事件での共謀共同正犯として、起訴され、判決がくだされた。 ①脇之浦漁協組合長(北九州市)・梶原國弘殺害事件、98年2月18日。実行犯の中村:無期、古口:20年、西田:無罪。しかし、逮捕された田上は不起訴 ②福岡県警元警部重傷事件(被害者は現役時代に工藤會を担当し、現在は定年後の再就職先に勤務)、2012年4月19日。実行犯は田中組・秋田。 ③女性看護師重傷事件、2013年1月28日。野村が亀頭増大手術をした時の施術者が被害者。術後の調子がよくなかったため。田中組組長・菊池、実行犯の田中組若頭補佐・大石、瓜田組組長・瓜田らを起訴、野村、田上も逮捕されたが・・・ ④北九州市漁協組合長・上野忠義射殺事件(①の被害者の弟)、2013年12月20日。未解決 ⑤歯科医師重傷(梶原や太郎の親族が被害者)、2014年5月26日。太郎はファミリーの大黒柱で北九州市漁協理事。実行犯は秋田、バイク運転は田中組・富山純一。野村も起訴されたが組織的殺人未遂で。 漁協を取り仕切っていた梶原・上野ファミリーの企業群は、港湾開発の利権を握っていた。その一部を要求していたのが工藤會で、梶原や上野がそれを断ち切ろうとして、殺され、親族などが襲われた。関連企業で働いていた元従業員なんかも襲われるという恐ろしさがあった。 「野村、田上の弁護人は強力だった」という下りがある。228ページ。「主任弁護には大阪弁護士会所属の後藤貞人(さだと)。有数の刑事弁護士といわれ・・・暴力団山口組幹部がかかわる拳銃共同所持事件などで無罪判決を獲得してきた」と続く。 大阪の知り合い弁護士に聞くと、この人は刑事弁護では神様扱いだと言っていた。とくにヤクザの味方ということではなく、冤罪事件にも積極的に取り組むリーダー的存在でもあることはマスメディアも報じている。 ところが僕にとって、この後藤貞人弁護士は実に嫌なやつなのである。30年ほど前に友人が強盗殺人で殺されたが、25歳の被告人の弁護に立ったのがこの弁護士だった。当時から、刑事弁護の第一人者だとは聞かされていたが、ハルシオンを飲んでマリファナ買う金ほしさに真面目なサラリーマンだった友人を殺したやつに弁護の余地などなく、公判はすべて傍聴したが、この弁護士はほとんど大した弁護をしていなかった。 では、なんでそんな奴の弁護人になったのか。そこには組織が絡んでいた。最終的には、当時の社会党が絡んでいたとのことだった。 ******** 山口組はこうして生まれた 火野葦平の「花と龍」主人公で、火野の実父・玉井金五郎は八幡製鉄所の企業城下町に集まってきた「不逞の輩」を束ねる親分の1人だった。とくに「大親分」といわれたのが吉田磯吉。吉田は総選挙に出馬し、1915-1932年まで在職した。 吉田の子分で炭坑の坑夫を統率する納屋頭だった富永亀吉は神戸に進出し、神戸港の労務作業に妊婦を供給する富永組を興して大親分に。その後、北九州時代の子分だった大島秀吉が富永なきあと神戸ヤクザのトップに。その大島の子分の山口春吉が沖仲仕の集団・山口組を結成して初代組長に。
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暴力団との戦いというより、警察と検察のいがみ合いが表面化したのが発端で、警察が次第に確実な証言を得るための努力をして、検察がそれを認めたと総括出来よう.それにしても、工藤會をのさばらせた元々の要因を改めて復習しておく必要があると思う.住民の中途半端な力ではどうしようもないので、警...
暴力団との戦いというより、警察と検察のいがみ合いが表面化したのが発端で、警察が次第に確実な証言を得るための努力をして、検察がそれを認めたと総括出来よう.それにしても、工藤會をのさばらせた元々の要因を改めて復習しておく必要があると思う.住民の中途半端な力ではどうしようもないので、警察がそのあたりを認識して対処するべきだろう.残された元組員をどう扱うか.「抱撲」の活動はその受け皿になると思う.
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