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新訳 東洋の理想 の商品レビュー

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2023/08/29

本書を読み始めたきっかけは、尾崎秀実について取り上げた竹内好編著『現代思想体系 9 アジア主義』(筑摩書房、1963)の中で、最初に取り上げられていた論文だったから(訳者は富原芳彰。現在、講談社学術文庫で読むことができる)。 新訳が出たばかりならそちらをと手に取ったのだが、正解だ...

本書を読み始めたきっかけは、尾崎秀実について取り上げた竹内好編著『現代思想体系 9 アジア主義』(筑摩書房、1963)の中で、最初に取り上げられていた論文だったから(訳者は富原芳彰。現在、講談社学術文庫で読むことができる)。 新訳が出たばかりならそちらをと手に取ったのだが、正解だった。原著は註も少なく、絵画や彫刻などの美術作品を論じてはいても、図版は皆無。 抽象度の高い美術論や哲学的考察が頻出するので、理解するのが容易ではない。 詳細な解説と訳註に加え、適宜図版を挿入してくれているので、大変読みやすく仕上がっている。 ただ、終章「『東洋の理想』はどう読まれてきたか」での竹内好についての記述は納得できない。 竹内好が「天心はあつかいにくい思想家であり、また、ある意味で危険な思想家でもある」と始める論文「岡倉天心―アジア観に立つ文明批判」(竹内1962)を端緒として、むしろ『東洋の理想』そのものを読み直すことを忌避し、岡倉の思想を総じて危険なものと留保しておくことで先送りしようとする傾向が高まった感がある。 (p.445) これは竹内だけを論じているわけではないにしても、竹内評としては間違っていると思う。 先の『アジア主義』では天心をこう評している。 この「アジアは一つ」という命題は、のちに日本ファシズムによって『大東合邦論』におとらず悪用された。天心が「アジアは一つ」と言ったのは、汚辱にみちたアジアが本性に立ちもどる姿をロマンチックに「理想」として述べたわけだから、これを帝国主義の賛美と解するのは、全く原意を逆立ちさせている。帝国主義は、天心によれば、西欧的なものであって、美の破壊者として、排斥すべきものなのだ。 (p.43) 本書を読み終えた後でも、竹内の天心についての論考は時代的にも先駆的なものだったと断言できる。おそらく天心も含め、竹内好自体も読まれなくなっているというのが実相だろう。

Posted byブクログ