中国減速の深層 の商品レビュー
中国の景気減速。真相、ではなく深層というタイトルに特別込めた思いがあるのだろう。確かに、何かしらの因果関係を明かすような「真相」を取り扱う本ではないかもしれない。寧ろ、歴史的経緯や政治的背景、構造的な複雑さを考察していくアプローチは、その入り組んだ「深層」の解明への挑戦という方が...
中国の景気減速。真相、ではなく深層というタイトルに特別込めた思いがあるのだろう。確かに、何かしらの因果関係を明かすような「真相」を取り扱う本ではないかもしれない。寧ろ、歴史的経緯や政治的背景、構造的な複雑さを考察していくアプローチは、その入り組んだ「深層」の解明への挑戦という方が近いのかもしれない。よく分析された良書である。 ー 2015年当時、鉄鋼、セメント、ガラス、船舶など様々な業種で過剰生産設備は深刻だった。政府は、行政指導と市場メカニズムによる淘汰を駆使してこの問題の解決に乗り出した。筆者は、当時、中国の過剰生産設備問題の早期解決には懐疑的だった。しかし、結果的に過剰生産設備問題は2~3年で基本的に解消した。典型的な過剰設備産業だった鉄鋼業を例に取ろう。政府は、大手鉄鋼メーカーに対しては古くて環境基準に達しない生産設備を消却し、生産を抑制するよう指導した。一方で、中小メーカーに対しては、市場メカニズムによる淘汰と環境規制・安全規制の徹底を求めていった。当時、地条鋼という鉄スクラップを低温の電炉で溶かした粗悪で違法な鋼材の生産能力が1億トン以上あるとされていた。中国政府は、これを全て廃止することを命じ、中央から監視団を派遣して厳しくチェックした。このような取り組みの結果、鉄鋼の生産能力は削減され、鋼材価格は反発した。日本の鉄鋼業界の駐在員が、「自分も良い意味で想定外だったけれど、中国政府の取り組みは、うまくいきました。鉄鋼の過剰設備問題は、2年ほどで基本的に解決したと言えます」と語っていたのが印象に残っている。 需給調整を国家主導で行える事は中国の強みだが、真に過剰が解消されたのかは分からない。環境問題が改善傾向にあるのは確かだと聞くが。また、中国の抱える問題でもあり、揺動させるチャンスとしても扱えるのが格差問題だ。同質なものとして変化のチャンスとなるのは、新エネルギー。 ー 格差の固定化を懸念しているのだろう。日本では、相続税があるため、富裕層でも相続税の支払いによって「三代で潰れる」と言われる。機会の平等という意味では、公平なメカニズムだとも言える。しかし、中国では、相続税も固定資産税もない。豊かになり資産を持った家庭に生まれれば、その子孫は、豊かさをそのまま享受できる。一方で、都市部に出てきた農民工は都市部の戸籍が得られないため、子供に十分な教育を与えられない。その子孫が、富裕になるチャンスは相対的に低い。 ー 再生可能エネルギーの拡大にあたっては、課題もある。金振ほか(2021)は、送電設備の整備とバックアップ電源確保による安定供給の二つが課題だと指摘する。中国で大量に再生可能エネルギーを生産できるのは、西北部の砂漠地帯だ。その一方、大量に電力を費するのは東部沿海部であり、両地域の間に一度に大量の送電が可能な超高圧の送電網の整備が必要になる。また、太陽光、風力とも発電量は天候の変化の影響を大きく受けるため、バックアップ電力(火力、水力がメイン)や蓄電池を整備し、電力を安定供給することが必要になる。中国もこれらの課題は十分認識しており、超高圧送電網とバックアップ電力の整備に急ピッチで取り組んでいる。ここには日本企業の商機もあるだろう。超高圧送電網に使われる、電気を通す高品質の電磁鋼板は、日本の鉄鋼メーカーが競争力を持っている分野だ。また、電磁鋼板は、EVのモーターの材料でもある。 トリクルダウンから共同富裕へというと、聞こえは良いが、実態はどうか。独裁者による理想の求め方には注意が必要だ。
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中国バブルはいったいいつになったら弾けるのかと常々疑問を持っていたが、本書を読んでストンと腑に落ちた。やはり中国は中長期的視点に立ってしたたかに戦略を練っているのだ。中国経済の現状と展望を著者自身の中国駐在時の体験談も含め丁寧に偏らず解説している。しかし、今後は急速に進む高齢化と...
中国バブルはいったいいつになったら弾けるのかと常々疑問を持っていたが、本書を読んでストンと腑に落ちた。やはり中国は中長期的視点に立ってしたたかに戦略を練っているのだ。中国経済の現状と展望を著者自身の中国駐在時の体験談も含め丁寧に偏らず解説している。しかし、今後は急速に進む高齢化と、習近平政権の長期化が最大のリスク要因になっていくと思う。
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