思考の庭のつくりかた はじめての人文学ガイド の商品レビュー
本書は、文化や芸術が好きで深く作品を楽しめるようになりたい人に向けた「人文学」の指南書だ。 「人文知」の学び方や考え方、読者が実際に「思考の庭」を作り上げるためのヒントが述べられている。 実験室で再現できない問題を研究対象とする「人文学」が、ビジネスやテクノロジーが加速的に変...
本書は、文化や芸術が好きで深く作品を楽しめるようになりたい人に向けた「人文学」の指南書だ。 「人文知」の学び方や考え方、読者が実際に「思考の庭」を作り上げるためのヒントが述べられている。 実験室で再現できない問題を研究対象とする「人文学」が、ビジネスやテクノロジーが加速的に変化するこの時代にどうあるべきなのか。 すぐには役立たないけど、二手先、三手先を見据えた余分な知識の「仕込み」をしておくことが、次の仕事に役立ってくる。 人文系著作からの引用が豊富で、著者の主張する「インプットの量」を増やすにはもってこいかもしれない。 ーーーーーーー一以下、抜書きーーーーーーー一 . 人文系の学問の根幹にあるのは「テクストを読む」という作業です。他者の書いたものを読み、じっくり考え、ときにはそれをもとに討議する──学生であれ教員であれ、このインプットとアウトプットの地道な往復を続けていくことが、人文系のトレーニングの基本中の基本です。野球選手で言えば、バットの素振りや筋トレのようなものです。 . たまに「どうしても文章を書けない」という学生に出会いますが、それはたいてい書く技術というよりもインプットの量が足りないのです。乏しい情報でむりをしようとするから、すぐに行き詰まってしまう。回り道に思えても、あらかじめ多めに素材をインプットしておくと、おのずとその分野のパターンが浮かび上がり、的外れなことを書く危険が減ります。 . 結局、書くというのは、言葉をよりふさわしいものに修正し続けるプロセスです。これは時間と労力を要します。学生だけではなくプロの書き手にとっても、あれでもない、これでもないと言葉の迷宮をさまようのは、ときに苦痛でしょう。しかし、この難所でこそ、丁寧で粘り強い思考が要求される。しっくりくる言葉を見つけるのに数日悩むこともありますが、この苦労を省略すると、精神的にも技術的にも成長しません。 . ①情報を多めにインプットし、 ②そこからその分野に固有の問題やパターンを抽出し、 ③思考のユニットを構築し、 ④より正確な言葉を探索し続ける。この一連の手続きを粘り強くやっていくことが、知的生産性を保つ基本だと思います。 . 僕の考えでは、テクストを読むようにして世界を読む人間、それが文芸批評家です。文芸批評家とは、世界のあらゆる事物や現象を一種のテクストとして読み解こうとする著述家です。だからこそ、音楽批評や美術批評もやれるし、知らず知らずのうちにアメリカナイズされた日本人の「政治的無意識」にも果敢に切り込めるわけです。 . 要するに、作品に対して過保護になりすぎているケースがあるわけです。作品の生みの親として、子どもに対してずっと責任を負わねばならない──そういう保護者的な作り手が目立ちます。でも、その結果、作家が自縄自縛に陥ることも多い。これが今の文化産業の大きな問題です。ただ、昔の手塚治虫が典型ですが、うまくいかなかった作品は早々に見切りをつけて、次にどんどんいき、後の展開は読者に委ねるというのが、漫画やアニメのむしろ良いところではなかったでしょうか。 . 僕の考えでは、書き手を突き動かす力は「問い」です。しかも、それは容易には解けない問い、つまりアポリア(難問)でなければなりません。哲学者のハイデッガーは「すべて、問うということは、求めることである」と記しましたが、これはたえず僕の念頭にある言葉です。問いをもって書くことは、何かを求めることです。この希求する心がないと、書くことは長続きしません。 . この「庭」という語について、著名な日本史家である網野善彦は、興味深いことを指摘しています。網野によれば、今の日本語で「場」を使う語も、室町時代以前は「庭」と書くケースが多かった。「市場」は「市庭」、「売場」は「売庭」、さらには「朝廷」も「朝庭」という具合に、「庭」という語は空間の名称としてきわめて広く使われていたのです。 . 学者も含めて、われわれはつい「今」に引きずられて「事後的な合理化」をやりがちです。その結果、権威主義体制がまるで不変の政治状況にすら思えてしまう。歴史学的なセンスが要求されるのは、このような「点」の支配から逃れ、事後的な合理化の罠を回避し、むしろその手前にあった複雑な「線」のからみあいに敏感になろうとするときです。 . そもそも、文化体験には大なり小なり受苦的な性格があります。わざわざ遠くまで映画や美術を見に行って、そのつまらなさに落胆してトボトボと帰る──アートにはこういうムダな「苦行」がつきものです。硬い椅子で長大な映画を見るのも、半ば拷問に近い。でも、良い作品に出会える保証は何もないにもかかわらず、現場に出かけずにはいられない性分の人間が、アートを支えてきたわけです。
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著者がご自身の素養をどのように養ってきたかを紹介している本。私にはしっくりこなかった部分もあります。著者の景色を眺められていないと感じています。同じような景色を眺められるように、学びを続けないといけません。
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大学生向けの本ということもあって、あまり期待せずに読んだのだが、かなり良かった。 年代関係なく、ずっと使える普遍的な知識に対する向き合い方が載っている。 前半は読書術、思考術、コミュニケーションという実践的な技術を語り、後半から近代、歴史、芸術というテーマを語っている。 結構ど...
大学生向けの本ということもあって、あまり期待せずに読んだのだが、かなり良かった。 年代関係なく、ずっと使える普遍的な知識に対する向き合い方が載っている。 前半は読書術、思考術、コミュニケーションという実践的な技術を語り、後半から近代、歴史、芸術というテーマを語っている。 結構どの箇所も興味深くて学びとなるものがちゃんとあった。 なかなか難しいところもあるだろうが、この本をベースに知識を溜めることが出来たらかなりのものが出来そう。
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面白い。読書だけじゃなくて、情報の取り込み方の価値観が変わる。本を読むのはなぜか?ここにいる皆さんの人生のガイドたり得る本。人間はテクストによってつながる動物ゆえに。 知識を体系化するために布状に本を読んでいくなど、新たな学びがいくつもあった。 何よりも、自分の思考フィールドを庭...
面白い。読書だけじゃなくて、情報の取り込み方の価値観が変わる。本を読むのはなぜか?ここにいる皆さんの人生のガイドたり得る本。人間はテクストによってつながる動物ゆえに。 知識を体系化するために布状に本を読んでいくなど、新たな学びがいくつもあった。 何よりも、自分の思考フィールドを庭として扱うことで、何を栄養とさせるか?という感覚になり、愛を注げるようになる。 おすすめです。
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はじめにー考える心のセットアップ 人文知への招待 目詰まりをとるために 引っかかるポイントは誰しもさほど変わらない 実学に限界があるのは常識 考えるヒント 第1章 読書―読んで書くためのヒント 作品をテクストとして読む 作品どうしに対話させる パースペクティブを獲得 本はノンリニ...
はじめにー考える心のセットアップ 人文知への招待 目詰まりをとるために 引っかかるポイントは誰しもさほど変わらない 実学に限界があるのは常識 考えるヒント 第1章 読書―読んで書くためのヒント 作品をテクストとして読む 作品どうしに対話させる パースペクティブを獲得 本はノンリニア 純粋な精読は無意味 第2章 批評―考える“庭”を作る 第3章 言葉―まずはニュートラルに話そう 第4章 近代―われわれはどんな時代に生きているか 第5章 歴史―急所が分かれば十分 第6章 芸術―「力」との接触 付録ブックリスト「二〇代の自分に読ませたい本」二〇選
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