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野田弘志 真理のリアリズム の商品レビュー

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2024/01/03

写実画関連で、上田薫先生を知り、 野田弘志先生にも出会いました。 画集をみて、圧巻の一言。 同じ写実画でも、ここまで違うのだな、と。 写実画の先に見つめるもの。 先生の魂、芸術の神域、素晴らしいです。 ほんとーーーに、絵が欲しい!笑

Posted byブクログ

2022/11/29

ミロのヴィーナスは、よく見ると不思議な彫刻だ。なぜなら、人体を微細な点にまで写実に映し出したようでいて、そのあまりにも均整がとれた肉体は写実を離れて独立しているからだ。美術の世界ではそのように、圧倒的技量を身につけて実物の姿かたちに肉薄することにより、実体を超越した新たな存在を浮...

ミロのヴィーナスは、よく見ると不思議な彫刻だ。なぜなら、人体を微細な点にまで写実に映し出したようでいて、そのあまりにも均整がとれた肉体は写実を離れて独立しているからだ。美術の世界ではそのように、圧倒的技量を身につけて実物の姿かたちに肉薄することにより、実体を超越した新たな存在を浮かび上がらせることができるのだろう。 そのことを、野田弘志の作品に対しても当てはめていいのではないだろうか。それは、画集に寄せられた各人の文章に「事実よりも真実」という意味の言葉が共通することとも符合する。 私は2022年の秋、奈良県立美術館の「野田弘志-真理のリアリズム展」を訪れ、この画集を手に入れた。画家の年代に沿うような展示では、風景や静物や人物を緻密に描くという画家のスタンスが、年齢を重ねるにつれて、その内実を変化させていくさまが見られた。 画家が描こうとしたモチーフだけに注目しても、劇的に変化している。だから「なぜ画家はそれを題材にしようと考えたか」を想像し、実物にはない、実物を超えた、画家を引きつけた何物かを見つけ出そうとするだけで、目の前の各作品に吸い込まれるように心を持っていかれた。そのため、展示会場では充実した時間を過ごすことができた。 会場での余韻をさらになぞるべく、家に帰ってから画集を開くと、新たな発見があった。 寄稿者のなかに、2001年にノーベル化学賞を授賞された野依(のより)良治さんがいる。元は接点がなかったが、野依さんのご子息が現代美術作家となり、尊敬する画家に野田さんを挙げていたことが縁になった。 「一科学者が考えるリアリズム」と題された一文には、既存の画家作品の多くを、対象を微細に解析した「微分的観察」とし、それらと比較して野田さんの作品を、長い人生の精神的内面が織り込まれた「積分的表現」だと書いている。一愛好者としてだけではない、一科学者としての独特の言い回しだ。さらに、野田さんの画業を「そのアルゴリズムは未完である」とし、自己の終わることなき研究人生へと例えるくらい、ほれ込んでいる。つまり野田さんの作品には、野依さんの科学者としての功績に相当するくらいの希少性が含まれているということだ。 出版社は求龍堂。表紙に採用された眼を描いた絵でもわかるように、収録作品には新聞連載小説の挿画として描かれた鉛筆画も多い。(「この眼が鉛筆画⁉」と驚く人も多いだろう。)掲載当時は新聞のドットの集まりのラフな印刷による出来栄えを想定していたのだろうが、この画集では繊細な鉛筆のタッチを十分に見ることができる。特に人物や鳥、花などの生き物の鉛筆画では、まるで触ると動き出すかのように細やかな立体感を損なわずに印刷されている。さすがの印刷である。

Posted byブクログ