カチンの森 新装版 の商品レビュー
「カチンの森」とは、1940年春、第二次世界大戦直前の独ソ不可侵条約後のソ連による東部ポーランド併合の機会に捕らわれたポーランドの将校をはじめ、大学教授や教師、実業家、警察官、地主などの知識層約25,000人が虐殺された事件のことである。カチンは現ロシアのベラルーシとの国境にある...
「カチンの森」とは、1940年春、第二次世界大戦直前の独ソ不可侵条約後のソ連による東部ポーランド併合の機会に捕らわれたポーランドの将校をはじめ、大学教授や教師、実業家、警察官、地主などの知識層約25,000人が虐殺された事件のことである。カチンは現ロシアのベラルーシとの国境にあるスモレンスク州にある町の名前で、独ソ戦初期にソ連領内に侵攻したドイツ軍が同地域を占拠しているときにポーランド人の銃殺死体で埋まった数多くの墓穴を発見したと発表した。多くの状況証拠がソ連NKVDの仕業であることを示していたが、スターリンが戦後自らの蛮行を誤魔化すためにナチのプロパガンダと断じて戦後も調査を行わなかったこと、またソ連との関係維持を優先したイギリスを始めとした連合国側の意向もあり、長年事件そのものが隠蔽されていた。 グラスノスチによって1991年に公開された文書により、明確にスターリンによって許諾が下りたうえでのソ連による組織的実行であったことが明確になった。議論も裁判も経ることなく、ある国・地域の支配階級を根絶やしにするという意図をもった大量殺戮が近代国家によって現実に実行されたということが改めて明らかになった。 日本語版は2010年に初版が出たが、Kindle化されなかったので、買いあぐねていたが、2022年に新版が出たことともあり、紙の本で購入してようやく読んだ。欧州では、この本が出された時点で多くの書籍が出版されていて、事実も比較的広く知られていたとのことだが、日本ではなぜかあまり類書も出ていない。確かに現代日本においては深いつながりの感じられない事件なのかもしれないが、欧州が二十世紀に歩んできた壮絶な歴史を知るためにも知られてしかるべき事件なのだと思う。そして、人間が実際にこういうことを条件が揃えばしうる存在であるということもまた認識をするべきことなのだと思った。
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アウシュヴィッツのホロコーストに比べて日本ではあまり知られていないカチンの森事件ですが、この事件は戦争や歴史の問題を考える上で非常に重要な出来事だと私は感じました。 国の指導者、知識人層を根絶やしにする。これが国を暴力的に支配する時の定石であるということを学びました。非常に恐ろし...
アウシュヴィッツのホロコーストに比べて日本ではあまり知られていないカチンの森事件ですが、この事件は戦争や歴史の問題を考える上で非常に重要な出来事だと私は感じました。 国の指導者、知識人層を根絶やしにする。これが国を暴力的に支配する時の定石であるということを学びました。非常に恐ろしい内容の本です。ぜひ手に取って頂ければなと思います。
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序論:1940年・25000裕以上のポーランド市民がソ連秘密警察により銃殺 独ソ不可侵条約・モロトフ=リッベントロプ協定 ジェノサイドを人口統計上の一集団の殺害とする奇妙な定義 カチン虐殺事件・20世紀の全体主義制度の本質的な特徴 カチン虐殺は階級浄化の縮図、アウシュビッツは人種...
序論:1940年・25000裕以上のポーランド市民がソ連秘密警察により銃殺 独ソ不可侵条約・モロトフ=リッベントロプ協定 ジェノサイドを人口統計上の一集団の殺害とする奇妙な定義 カチン虐殺事件・20世紀の全体主義制度の本質的な特徴 カチン虐殺は階級浄化の縮図、アウシュビッツは人種浄化の縮図 I ポーランド分割とポーランド市民のソ連収容所拘禁 II 殺戮と追放 III 階級殺戮、すなわち階級浄化 IV カチンの虐殺——責任者たちを探して V ソ連のつく嘘と西側によるその隠蔽 VI ソ連の公式見解に甘んじる政治家と歴史研究者 VII ゴルバチョフの沈黙 VIII カチン事件——歴史学と政治へのひとつの教訓
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第二次世界大戦中、カチンの森で発見されたポーランド軍将校等の銃殺がソ連の仕業であるということは、何で知ったのだろうか、それ自体は知っていた。しかし、その事実が明らかになるまでに、そしてソ連がそのことを認めるまでに、本書で書かれているようなことがあったとは、本当に衝撃的だった。 ...
第二次世界大戦中、カチンの森で発見されたポーランド軍将校等の銃殺がソ連の仕業であるということは、何で知ったのだろうか、それ自体は知っていた。しかし、その事実が明らかになるまでに、そしてソ連がそのことを認めるまでに、本書で書かれているようなことがあったとは、本当に衝撃的だった。 ソ連崩壊とその後の文書公開という事態がなければ、この国家犯罪の真相は決して明らかにならなかった可能性が高かった。 またナチスと異なり、ソ連関係者では誰一人処罰されていない。“勝てば官軍“ではないが、ヒットラーに勝つにはスターリン・ソ連の貢献が大だったので、敢えてその真相解明に協力せず蓋をしたことにイギリス、アメリカも加担していたというのは、リアルポリティークとは言え、ショックだった。 階級敵と認定されると、一人ひとりの人格は全く剥ぎ取られてしまい、無慈悲なことでも平然と処理されてしまう全体主義体制の怖さ、そしてそれが国家的に隠蔽されてしまう怖さを、本書は教えてくれる。 これほど大きな事件でもこうなのだから、国家による歴史が本当に「真実」なのか、真実と認めて良いのか、どう考えたら良いのだろうか? ロシアによるウクライナ侵攻が、ウクライナの非ナチ化のためといった名分で行われていることをとっても、決してスターリン体制時代の過去のこととして済ませられるようなことではない。国家の恐ろしさが、改めて身に沁みて感じられた。
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