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人的資源管理 改訂新版 の商品レビュー

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2023/08/31

「日本的人的資源管理」という概念がある。 それは、例えば、以下のようなもので構成されている。 ①長期安定雇用(終身雇用とも言う)②幅広い職務経験(ローテーション)③職能資格制度④遅い昇進⑤勤務地や職種、労働時間などの無限定性。これらの慣行・制度は高度成長期に原型がつくられ、安定成...

「日本的人的資源管理」という概念がある。 それは、例えば、以下のようなもので構成されている。 ①長期安定雇用(終身雇用とも言う)②幅広い職務経験(ローテーション)③職能資格制度④遅い昇進⑤勤務地や職種、労働時間などの無限定性。これらの慣行・制度は高度成長期に原型がつくられ、安定成長期に行き渡ったと言われている。 これらの制度が形作られたのは、高度成長期以降の日本企業の戦略を推進するために都合が良かったこと、そして、その戦略が日本企業の繁栄をもたらしたためである。高度成長期以降、特に安定成長期の日本企業、特に日本のメーカーは世界を席巻した。強さを誇ったのは、例えば自動車産業であり、電機産業であった。これらの産業に属する日本企業の強みは、現場のオペレーションであった。それは、品質であり、コスト競争力であり、それらを支えていたのは、現場のすり合わせ技術であり、現場での改善であった。 上記した、日本的人的資源管理の5つの特徴は、これらの戦略と整合的であった。すり合わせや現場での改善がなされるためには、長い職務経験が必要であり、また、自職場だけではなく、前後の工程を含めた職務経験が必要である。これらを「熟練」と言うとすれば、「熟練」を促すには、「職務遂行能力」がベースとなる「職能資格制度」が整合的であった。ホワイトカラーも同じような文脈で語ることができるが、ホワイトカラーの場合には、さらに昇進に早いうちから差をつけないことにより、皆が気持ちよく働けるようにすると同時に、「競争する期間」を長引かせ、長期間「頑張る」ことを強いる制度を設けた。また、高度成長の企業は、成長することによって、地域的にも(全国展開・グローバル化)、業種的にも(多角化)事業を拡げていった。それには配置転換が必要であり、長期の安定的な雇用保障と引き換えに、職務の無限定性がとられた。 また、法律をはじめとする社会的な制度も、「日本的人的資源管理」の特徴と整合的であった。例えば、日本では解雇権濫用法理によって解雇が厳しく制限されている。これは、長期安定的雇用・職務等の無限定性と整合的である。そのような中でも従業員の「出口」は必要であるため、「定年制度」というものが出来たと考えられる。また、あらかじめ職務を決めない採用であるため、また、「すり合わせ」の仲間たる人材を採用するがため、学卒一括採用制度が採られた。 ところが、事態は一変する。 「現場の強さ」が企業の競争力に直結する時代が過ぎ去ったのである。GAFAをはじめとする現代の競争力のある企業は、技術力・革新性・スピードなど、要するに、現場から積みあがる競争力ではなく、創造的なアイデアをビジネスに換えていく力が強いのであって、それには、真に革新的なビジネスモデルを設計する力、それを実現するためのリーダーシップ等が求められる。要するに、日本が得意としていた、現場の強さを競争力とするようなビジネスモデルは、過去のものとなったのである。 「日本的人事制度」は古い、改革が必要である、とよく言われる。 確かにそういう部分はある。「なかなか差がつかない遅い昇進」は、優秀な人材にとっては邪魔な制度だろう。また、それでは、本当のリーダーはなかなか育たない。そういったことは変革を要するのであるが、「実は話はさかさま」な気がしないでもない。 すなわち、「日本的人的資源管理」は、「現場の強みを事業競争力とするという日本企業の競争戦略」をサポートする仕組みであったに過ぎないのである。人事制度が、人事制度単独で、他の文脈と関係なく存在することはあり得ないのだ。 現在の状態は、「日本的人的資源管理」の前提となっていた「日本的経営」が負けている状態なのだ。すなわち、GAFAと戦えるような、それが大げさだとしても、グローバル市場で勝ちぬいて行ける「戦略を構築・実行していく」ことが先決であり、人事制度は、それと整合的なものを整備していく、という順番になるはずだ。人事制度だけ変えることに、あまり意味はないのではないかと感じる。一時期、成果主義人事制度といったものが「流行」を見せたが、企業の戦略を変えないまま、そのような制度を導入しても、戦略と整合性がとれないので、廃れていったのではないかと思う。

Posted byブクログ