身近に考える人権 の商品レビュー
主に、統計的な資料と法令や条約などをもとに「子どもの人権」「女性の人権」「障がい者の人権」といったトピックの現状を説明し、具体的な人権問題に関わる事例をあげたりしてくれる本。そういった意味では、タイトルの「身近に考える」という部分は、あんまりピンとこなかった。今日までの統計データ...
主に、統計的な資料と法令や条約などをもとに「子どもの人権」「女性の人権」「障がい者の人権」といったトピックの現状を説明し、具体的な人権問題に関わる事例をあげたりしてくれる本。そういった意味では、タイトルの「身近に考える」という部分は、あんまりピンとこなかった。今日までの統計データを元にした問題設定をするので、そこのあたりは、時間が経って読むと古くなってしまう(というより、なってほしい)感じがある。 抽象度の高い原理的・理論的な話や、様々な概念や考え方の歴史的な系譜の話の方がどうしても好きなので、個人的には、1章「人権のはじまり」、14章「差別する心理」のあたりが一番参考になった。具体的なトピックでは、8章「部落差別と人権」、12章「さまざまなハラスメント」のところが、よく分かっていなかったことが分かり、すごく勉強になった。まだまだ理解が浅いが、概要をつかむとっかかりとしては、初心者にやさしくてよかった。 特に、部落差別については、飛鳥時代にまで遡って、「部落」と呼ばれる被差別地域が生まれる過程を説明してくれていて、本当によく分かった。昭和四十年代頃から、部落差別が具体的にどのような形で行われていたのか、日本に暮らす人たちが部落に対してどのような認識を持っているのか、アンケート調査などを元に歴史的な実態を見せてくれている。どうしても、自分の身の周りで「部落」に関する出来事を経験することがないので、こういったところは、統計的なデータがあって説得力があるのがいいなと思うところだった。 ハラスメントについても、ハラスメントという言葉が、どういう経緯で使われるようになったのかをきちんと説明した上で、なぜ「〇〇ハラスメント」という言葉が乱立するのかを説明してくれている。最近はなんでもかんでもハラスメントにされる、みたいなことを言っている人たちに対して、そうじゃないんだよ、といった話をするのにけっこう参考になる。 他の章に関しては、扱われるトピックの大きさに対して、文量が少ないので、ちょっと物足りなかったというのが正直な感想。各トピックについて、別の本でもう少ししっかりと読みたい。部落とか、ハラスメントとかは、対象が絞られている分だけ、コンパクトにまとまっている感があった。 読めば読むほど、差別の問題は、それぞれの差別にそれぞれの歴史的な経緯があるんだなと思った。そういった意味では、やっぱり、14章の「差別する心理」みたいに、色々な差別現象に共通することを念頭に入れつつ、個別の差別について、その成り立ちを考えないといけないなと思う。そういう本だった。
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