経営リーダーのための社会システム論 の商品レビュー
社会の構造的な課題を分析し、その処方箋を提示する。実にまっとうな、そして、現時点で最高水準の本だ。 キーワードはシステム化。行政や市場といった便利で快適なシステムに依存すると、社会は空洞化し、かえって統治は難しくなっていく。秋葉原事件のような無差別事件は多発するようになる。では...
社会の構造的な課題を分析し、その処方箋を提示する。実にまっとうな、そして、現時点で最高水準の本だ。 キーワードはシステム化。行政や市場といった便利で快適なシステムに依存すると、社会は空洞化し、かえって統治は難しくなっていく。秋葉原事件のような無差別事件は多発するようになる。ではどうすれば? 本書のすごくまっとうな提言に耳を傾けよう。日本社会について、現代について、未来について、まずはこの本を読んでから語るべし。 何より、宮台氏の利他ぶりに、涙が出た。
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国家の設立目的と現代の国家の目的は一致していないのかもしれない。その中で、どのように国家を維持するモチベーションを持たせられるのか? > このように国民国家は、近代社会の理想像とは裏腹に、大きな矛盾をはらんでいました。つまり、エマヌエル・カントが掲げた「恒久平和の実現」と...
国家の設立目的と現代の国家の目的は一致していないのかもしれない。その中で、どのように国家を維持するモチベーションを持たせられるのか? > このように国民国家は、近代社会の理想像とは裏腹に、大きな矛盾をはらんでいました。つまり、エマヌエル・カントが掲げた「恒久平和の実現」という理想と、「戦争マシーンとしての国民国家」という現実との間に、埋めがたい齟齬がありました。けれど、それでもかろうじて運営されてきたのは、感情への設計(戦争を背景とした愛国教育)によって「われわれ意識」をインストールされた国民の中に、国民のためを考えて生きる「比較的まともな市民たち」がいたからです。「比較的まともな市民たち」が理性的に振る舞うことで、国民国家が支えられてきたのです。
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社会システムの変化に伴う、非人間性の浸透に対して、なぜそうなるか、何を意図してそうなってきたかを整理して、その上で懐古主義ではなく、これからどうするかについて、良質な問いかけを元に対話形式で進む本書は、学生、ビジネスパーソンだけでなく、すべての成人に読んでほしい書籍。事例は分かり...
社会システムの変化に伴う、非人間性の浸透に対して、なぜそうなるか、何を意図してそうなってきたかを整理して、その上で懐古主義ではなく、これからどうするかについて、良質な問いかけを元に対話形式で進む本書は、学生、ビジネスパーソンだけでなく、すべての成人に読んでほしい書籍。事例は分かりやすく、マッチングアプリやマトリックス、アバター、鬼滅の刃なども事例に取り上げられている。 今通常のピラミッド組織におけるリーダーおよび今後のリーダー候補が、これからの社会のリーダー足り得ないことも描かれており、その立場にいる人も、その立場に関心が薄い、あるいは自分はその候補でないと思っている人も、目を通す価値のある本だと思う。
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久しぶりに集中して、本の後半は朝の3時から6時半で、一気に読み終えた。大学生までは、小説や哲学や社会学が好きだったこともあり、宮台さんの本は、当時のサブカル、援交などを全てまるっと大きく、社会学として、批評しているイメージがあったけど、難解な本は難解であった。 いつからか、私も...
久しぶりに集中して、本の後半は朝の3時から6時半で、一気に読み終えた。大学生までは、小説や哲学や社会学が好きだったこともあり、宮台さんの本は、当時のサブカル、援交などを全てまるっと大きく、社会学として、批評しているイメージがあったけど、難解な本は難解であった。 いつからか、私も、大学生までは最も嫌悪していたハック、ビジネス、自己啓発といった類の効率性重視かつ、心が貧しくなる本しか読まなくなった自分がいたが、そんな中、ビジネスと社会学が交わった本書は、適度なバランスで記述された本だと思う。 システム化と生活世界の軸をべースに、3段階の郊外化があったという話は納得できるストーリーだし、それぞれのキーワードである団地化、コンビニ化、ネット化は、今までも他の人の意見も踏まえ、論じられてきたデーマであり、腹落ちはする。 続
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宮台さんと野田さんが至善館で行った講義を書籍化したもの。コスパで捉える人間関係、自分は入れ替え可能な存在であると思いつめてしまうこの社会。システム世界が広がり人間関係の煩わしさが減った分、孤独や自己責任を受け入れざるを得なくなった社会。以前のような地域社会が戻ることは難しいだろう...
宮台さんと野田さんが至善館で行った講義を書籍化したもの。コスパで捉える人間関係、自分は入れ替え可能な存在であると思いつめてしまうこの社会。システム世界が広がり人間関係の煩わしさが減った分、孤独や自己責任を受け入れざるを得なくなった社会。以前のような地域社会が戻ることは難しいだろう。読後、なるべく周りの人と話すようにした。そんな些細なことが生活世界を広げ、入れ替え可能ではない自分を作るような気がする。
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リベラルアーツに重きを置くなど特徴あるカリキュラムで知られる経営大学院の至善館で、社会学者の宮台真司と経営学者の野田智義が行った講義を元にした論考。もともと開学時から社会学者の橋爪大三郎などが教鞭を取っているのは認識していたのだが、まさか宮台真司まで登壇していたとは知らなかった。...
リベラルアーツに重きを置くなど特徴あるカリキュラムで知られる経営大学院の至善館で、社会学者の宮台真司と経営学者の野田智義が行った講義を元にした論考。もともと開学時から社会学者の橋爪大三郎などが教鞭を取っているのは認識していたのだが、まさか宮台真司まで登壇していたとは知らなかった。そしてここでの議論は今の日本、そしてこれからの日本を考えていく上で超一級の思考の補助線を与えてくれると断言できるほど素晴らしかった。 本書は「既に社会の底が抜けているこの日本社会をどのように良き社会へと変えることができるか?」という問題意識からスタートする。孤独死、無敵の人、ヘイトスピーチなど、日本社会は経済は何とか回っていても社会の底はこのような問題だらけで既に底が抜けかけた状態に至っている。そのような事態が発生しているのは、単一の悪者がいるわけでもなく、各構成員が良かれと思って行動をするうちにその総和からなる社会全体は悪い方向に進んでいく、というシステム的な観点での問題である。本書は社会学におけるニコラス・ルーマンらの社会システム論を理論的支柱とし、具体的な問題の状況を日本と海外の比較を行いながら明らかにし、そして最終的に著者2人による解決の方向性が示されていく。 実際の講義をベースとしたものということもあり、通常の宮台真司の著作からすると遥かに平易であり分かりやすく、普通に語れば極めて複雑なってしまう本書のストーリーをここまで平易に示せた点も含めて、十分な読みごたえがあった。
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日頃疑問に思っていた・違和感を感じていたことを、構造的に明確に説明してくれて、 なおかつ解決策まで提示してくれた至高の1冊。 ただその解決策を、実際に社会に浸透させて、人々の価値観や幸福感にまで落とし込んでいくとなると、ややリアリティが弱いなとは感じた。 かと言って自分もそれ以...
日頃疑問に思っていた・違和感を感じていたことを、構造的に明確に説明してくれて、 なおかつ解決策まで提示してくれた至高の1冊。 ただその解決策を、実際に社会に浸透させて、人々の価値観や幸福感にまで落とし込んでいくとなると、ややリアリティが弱いなとは感じた。 かと言って自分もそれ以上の解決策は思いつかないので、難しいところ。 優秀で暖かい気持ちを持った筆者の言う「まとも」な経営リーダーも、リソースは限られているわけで、 そこらへんも考えていくとかなり難易度は高いなとは思う。 とは言え、まずは出来ることを行動に移していくしかないのだが。
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自分の拙い理解で、資本主義とは何か?と問われたら、全てをお金で換算する社会と答える。故に効率化を追求し、分業に分業を重ね、餅は餅屋とばかりに専門家に任せた。結果、自分の専門以外のことはとんと何もできない人ばかりになった。もちろん自分もその1人。それが本書で言われる「システム化」と...
自分の拙い理解で、資本主義とは何か?と問われたら、全てをお金で換算する社会と答える。故に効率化を追求し、分業に分業を重ね、餅は餅屋とばかりに専門家に任せた。結果、自分の専門以外のことはとんと何もできない人ばかりになった。もちろん自分もその1人。それが本書で言われる「システム化」と理解している。 その世界の仕事はつまらない。自分は人事屋なので、間接部門のシェアド化などを見ていると強く思う。ただレンガを積んでいるか、みんなが幸せに集まる教会を作っているのか、それはその人の見方次第という寓話があるが、大抵の人にはやはりレンガ積みなのだ。しかも、その教会ができても、教会向けレンガ積みの専門家として次の教会が延々と待っているだけだ。終わるのは、ロボットが現れて仕事がなくなるときだけ。 本書の処方箋として、小規模のコミュニティを挙げているのは、資本論のコモンズや、宇沢弘文の社会的共通資本と同じものであるように認識した。
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野田智義は、非営利の独特な教育機関であるISL(Institute for Strategic Leadership)の創設者である。ISLは、大企業の経営幹部候補を対象に、リーダーを育てる教育を行う機関である。私はこれまでに、金井壽宏先生との共著である「リーダーシップの旅」とい...
野田智義は、非営利の独特な教育機関であるISL(Institute for Strategic Leadership)の創設者である。ISLは、大企業の経営幹部候補を対象に、リーダーを育てる教育を行う機関である。私はこれまでに、金井壽宏先生との共著である「リーダーシップの旅」という野田智義の著書を読んだことがあり、とても共感を覚えた記憶がある。ISLを母体に、2018年には大学院大学の至善館を開校されている。 宮台真司は有名な社会学者であるが、その至善館の特任教授として講義を受け持たれていて、本書「経営リーダーのための社会システム論 構造的問題と僕らの未来」は、その至善館での講義を著書にしたものである。 とても面白かった。社会学という学問を学んだことはないが、学んでみたくなるような書籍だった。 宮台真司と野田智義は、現代の日本社会を「社会の底が抜けている」状態であると認識している。それは、特定の大きな「悪者」がいるわけではないし、皆が悪い社会にしようと意図的に悪事を働いているわけではない。それは、社会システムの問題であり、構造的な問題である、と本書の中で主張しており、本書の大部分を使って、どんな状態なのか、その構造的な原因などを分析し語っている。 本書はISL・至善館での講義ノートなので、対象はリーダー候補の人たちだ。こういった状態の中で、あなた方は、リーダー候補としてどのように考え、どのようなアクションを起こしますか?というのが、講義の、本書の問いかけだ。 お二人が主張されていることの詳細の内容は本書に譲るが、とても漸進的で真っ当な内容であり、これらのリーダー候補の人たちが、それぞれの持ち場で本気で実践してくれると、世の中が良い方向に変わるきっかけになるかもしれないと感じた。
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「経営リーダーのための」という立て付けになっているが、別にそういうことを志す人でなくても、今、この時代を生きている私たち全員に必要なことが議論されている。 社会システム論(ハーバーマスとか、ルーマンなど)は、理論的には、かなりめんどくさいのだが、ここでの議論は難しくない。今、私...
「経営リーダーのための」という立て付けになっているが、別にそういうことを志す人でなくても、今、この時代を生きている私たち全員に必要なことが議論されている。 社会システム論(ハーバーマスとか、ルーマンなど)は、理論的には、かなりめんどくさいのだが、ここでの議論は難しくない。今、私たちの生きている時代、世界がどんな状況なのかを大きなシステムとして捉え、そして私たちの日常で身近に起こっていることを分析している。 システムという考え方は、個々の要素だけでなく、要素間の関係もみていくということ。つまり、全体は、一つ一つの要素の単なる積み上げではないということ。 ということは、うまくいけば、システムはここの力の総計以上の力を発揮することを可能にする。一方、うまくいかなければ、みんな頑張っているのに全体としては失敗してしまうということが起きる。 現代の社会はかなり厳しい機能不全になっていると思うが、この背景に誰か悪いやつがいて、、、という陰謀論にハマるのではなく、みんな善意で頑張っているにもかかわらず、全体として厳しい状況を再生産・強化する構造になっているという理解にシステム論は到達する。 この本では、今の日本社会や世界が、個人の意志とは関係なく、システムとして進んでいく方向性とそれへの対抗・対応手段についての議論をがなされている。 議論のたどり着くところはある意味当たり前のところかもしれないが、それが唯一の正解なわけではない。答えというより、議論のプロセスがスリリングで、この辺りは実際に他の人と対話してみる価値があると思った。 そして、今、こうした本を「経営リーダー」が読むことが薦められているということにかすかな希望を感じた。 表層的ないわゆるSDGsから、今の世界をしっかりみた活動にフォーカスが移るきっかけになるといいな。
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