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新編 閑な老人 の商品レビュー

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2024/01/14

随筆と私小説で編まれた作品集。生き続けることが、書き続けることであった方なんだなと感じる作品世界。書けなくなる時期もあるのだけれど、周囲の家族や友人達の支援、本人の努力によって乗り越え、穏やかな老年に至る。「人間を信ずる」(p215)。「他人の批評で右往左往していたら何も出来ない...

随筆と私小説で編まれた作品集。生き続けることが、書き続けることであった方なんだなと感じる作品世界。書けなくなる時期もあるのだけれど、周囲の家族や友人達の支援、本人の努力によって乗り越え、穏やかな老年に至る。「人間を信ずる」(p215)。「他人の批評で右往左往していたら何も出来ない」(p237)。「自分が感動したことを自分流に書く」(p250)。「今在るもののすべてと、できるだけ深く交わる」(p283)。閑な老人になるには、確固とした信念と努力の積み重ねが必要なのだな。編者の荻原魚雷の解説によると、1972年刊行の『閑な老人』とは三篇しか収録作が重ならないらしい。いずれオリジナル本も読んでみたい。

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2022/11/13

放蕩と極貧生活を送った元破滅型文学青年。歳を重ねてからは、草木を愛で散歩を趣味とし寒くなれば冬眠する人はいつ死ぬかわからない、だからこそ生きているだけで面白い―生死の境を彷徨い「生存五ケ年計画」を経て辿り着いたこの境地「暢気眼鏡」の作家が“閑な老人"になるまでをつづった...

放蕩と極貧生活を送った元破滅型文学青年。歳を重ねてからは、草木を愛で散歩を趣味とし寒くなれば冬眠する人はいつ死ぬかわからない、だからこそ生きているだけで面白い―生死の境を彷徨い「生存五ケ年計画」を経て辿り着いたこの境地「暢気眼鏡」の作家が“閑な老人"になるまでをつづった、文庫オリジナル作品集〈解説〉荻原魚雷 【目次】I五年 祖父 退職の願い 約束 狸の説 片づけごと 苔 閑な老人 歩きたい 上高地行 II相変らず 厭世・楽天 古本回顧談 気の弱さ、強さ 文学と家庭の幸福 運ということ 老後の問題 核兵器――素人の心配 明治は遠く――わが家の男女同権 戦友上林暁 生きる

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2022/11/10

「生きていることは、何となく滑稽で面白い」 目に映るものの面白さ(良さとか正しさ、ではない)に注目して書かれた文章は、何かを指南するわけではないのに、読み手の生き方をちょっとずつ、軽く楽しい方へと変えていく気がする。

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2022/04/07

「昭和期の代表的な私小説作家」とされる著者による短編私小説とエッセイによって構成される作品集。 巻末の編者解説によれば、同名の著作が1972年に刊行されているものの、本書では収録作品が大幅に変更されており、前回から残るのは表題作を含めた三篇に限られるという。 全体が二部に分かれ...

「昭和期の代表的な私小説作家」とされる著者による短編私小説とエッセイによって構成される作品集。 巻末の編者解説によれば、同名の著作が1972年に刊行されているものの、本書では収録作品が大幅に変更されており、前回から残るのは表題作を含めた三篇に限られるという。 全体が二部に分かれ、第一部は短編私小説10編の約200ページ、第二部がエッセイ12編による約80ページの構成となっている。小説内では著者自身や妻をはじめとする人物名が変更されている作品と、実名がそのまま使われる作品に分かれる。一応、第一部は私小説としてまとめられていると思われるが、実名の作品については小説なのか随筆なのか明確には判別できない作品も珍しくなく、違いを意識せずに読んだ。 著者は1899年生まれで1983年に没している。私にとって名前を聞いたことはある程度の作家による本書を手に取ったのは、書店で見かけた本書のタイトルとそのコンセプトに関心をもったからだった。「老人」というコンセプトに違わず、初出一覧を確認するかぎりほとんどの作品は50代後半以降に書かれている。 多数の作品からなるため、全ての作品に興味をもつまでには至らないが、概ね好意的に読むことができた。「昭和の私小説家」というと、個人的には湿っぽくて内面的なイメージが先行するきらいがあるのだが、著者作品はそのような先入観を裏切ってくれるものだった。 「人間は好いものだ、生きていることは好いことだ、と云う至極簡単な気持から小説を書いているのだし、また、この考えはなかなか変りそうもない」 エッセイ「相変わらず」で自身の姿勢をこのように明かす著者による作品と考え方には、内面的な暗さは感じられず、生涯を通して経済的な富にもそれほど恵まず、むしろ苦境に立たされることも多かったようだが、とくに恨み節もなくアッサリしている。また、昭和の小説家と家族との関係でいえば、家族よりも作品の出来を優先して私的には家庭を犠牲にする印象もあるのだが、少なくとも老境の著者にはそのような迷いは見えない。そしてそれは何も天然の性格だけによるものではなく、「つまり私は、書くために何かするということには不賛成なのだ。それは本末転倒だと思っている(「文学と家庭の幸福」)」とする、著者自身の信念につらなるものだろう。 このような著者から受ける鷹揚で明るく自然体の印象は、生来的な要素によるところもあるのかもしれないが、終戦一年前から五年間続いた病床生活で死を意識しつづけた経験が大きく影響していることを、本書収録の作品から想像させる。また、本書の多数の作品にも登場する妻・松枝の人柄も、著者の生涯に非常に大きな役目を果たしていることが容易に想像できる。「約束」や「わが家の男女同権」といった作品には、松枝の人柄の魅力が描かれ、著者から妻への思いの深さも窺うことができる。 「一雄君は生活においては実に明朗闊達な楽天主義者であるにもかかわらず、死生観においては、むしろ宿命論者といってもいいほど厭世的である」 「厭世・楽天」にある尾崎士郎から贈られたという言葉には、本書で表される著者の経験と人間性に合致して納得させられる。著者の「楽天」は、人生の経験を通して得られたものだからこそ強く根を張っているのではないかと感じさせられた。人間を本質的に信頼し、生を肯定する姿勢を崩さない著者による本作は、私小説への印象を変えるものだった。いずれ著者の他作品にも触れてみたい。

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2022/02/27

 文学を志しながらも無軌道な生活を送り、長男としての役割も果たさず親族とは絶縁状態になってしまった著者だったが、再婚を機に生活を立て直し、芥川賞受賞など作品も評価されてくる。しかし、終戦前後の長い病臥生活。  漸く回復してからの過去を振り返って思う妻や子どものこと、親や神主だった...

 文学を志しながらも無軌道な生活を送り、長男としての役割も果たさず親族とは絶縁状態になってしまった著者だったが、再婚を機に生活を立て直し、芥川賞受賞など作品も評価されてくる。しかし、終戦前後の長い病臥生活。  漸く回復してからの過去を振り返って思う妻や子どものこと、親や神主だった祖父のことなど。  また、生活の周りの自然を興味をもって眺め、淡々と文章に綴った「苔」や「閑な老人」。(残念ながら苔や木々、蛾や尺取虫、これらに関心を持って相手をしようとする境地には至っていない)  そして「狸の説」。関口良雄『昔日の客』で知った古本屋店主関口と、尾崎士郎や尾崎一雄たち文士の親密さが、本編にも良く表われている。  この世に生きていることが楽しい、生死を彷徨った作者だけに、この言葉は重いし、羨ましい。  人生も後半に入り、日常生活を楽しんで過ごしている本作のような作品に魅力を感じるようになっている。  

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2022/02/08

「暢気眼鏡」の作家が、生死の境を彷徨い「生存五ケ年計画」を経てたどり着いた、脱力しつつ前向きな日常を綴る。文庫オリジナル。〈編・解説〉荻原魚雷

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